視察・調査

EPOC視察(企画活動)青森方面の視察会
「生物多様性・脱炭素・資源循環などの取り組み調査」実施報告

《概要》

日時: 2024年10月8日(火曜日)〜10月9日(水曜日)
目的: 「生物多様性・脱炭素・資源循環」に関する理解を深める
視察先:
  1. 白神山地ビジターセンター
  2. 白神山地 世界遺産の径 ブナ林散策道
  3. 日本原燃株式会社
  4. 量子科学技術研究開発機構 六ケ所フュージョンエネルギー研究所
参加者: 34名

《各施設の見学内容》

  1. 白神山地ビジターセンター

     白神山地は、秋田県北西部と青森県南西部に位置しています。人為的な影響をほとんど受けていない原生的なブナ天然林が分布しており、さまざまな動植物が生息するなど貴重な生態系が保全されています。1993年12月には、ユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されました。
     白神山地のブナ林を調査する事前準備として、「展示ホール」の模型やパネル、映像体験ホールでの映像視聴を通じて、ブナ林のしくみ、生態系など、白神山地の自然・文化・歴史的な遺産について理解を深めました。


    白神山地ビジターセンター

    展示ホール:ブナの一生

  2. 白神山地 世界遺産の径 ブナ林散策道

     ネイチャーガイドさんの道案内により、ブナ林の保水能力、ブナ林と生息するさまざまな動物との関係、マタギと呼ばれる「集団で狩猟を行う人々」の生活や倫理観などの説明をお聞きしながら散策道を進み、「自然との共生」とはどういうことなのかについて考える良い機会となりました。
     ブナ林には、ブナの落ち葉が長い年月をかけて地面に堆積した「腐葉土」に、雨水や雪解け水が蓄えられて地下に浸透し、「天然のダム」と呼ばれるほどの保水能力があるとのことです。1本のブナの木は、ドラム缶約5本分の水を吸収する能力があり、散策道で見かける沢に流れている水は、「腐葉土」に保水された100年程度昔の水が染み出ているとのことです。沢の水が川となり、やがて海に注ぎ、雨となって白神山地に再び降り注ぎ、ブナ林によって保水されるという壮大な「水循環」が営まれています。
     今年は、ブナの木が「実」を付ける年であるとのことです。「実」を付ける年は、3〜5年の周期で訪れるそうです。毎年、「実」を付けると、動物たちが毎年「実」を食べてしまい、「ブナの木」の生存が脅かされる事態となることから、そのような事態にならないよう、動物たちの記憶から忘れ去られるよう「実」を付ける年の間隔を設けるように「ブナ林」自体が何らかの情報ネットワークで調整しているのではないかと考えられているそうです(種の保存)。
     ブナ林の中には、さまざまな植物が自生し、動物の生態系も保全されています。その昔、マタギが、独特の宗教観や倫理観を持ち、自然の恵みに感謝しながら(やみくもに動物を殺生しない、キノコを根から採取せずに刃物でそぎ取る、ブナの木に目印を付ける際は表皮部に留め、深部を傷つけない など)自然と共生し、ブナ林を守って来たそうです。
     我々は、自然からの恵み(「自然資本」)を利用することで、豊かで便利な社会を構築して来ました。しかし、それと引き換えに「自然資本」を棄損しています。「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」という「ネイチャー・ポジティブ(Nature Positive:自然再興)」の難しさを痛感しました。


    ブナ林の水のみ場

    ネイチャーガイドさんによる説明

  3. 日本原燃株式会社

     日本原燃株式会社は、日本原燃サービス株式会社(1980年設立)と日本原燃産業株式会社(1985年設立)が合併して、1992年に発足した会社です。9電力会社と日本原子力発電株式会社が主要な株主で、ウラン濃縮、原子力発電所の使用済燃料の再処理、MOX燃料(Mixed Oxide Fuel:混合酸化物燃料)の製造、高レベル放射性廃棄物の貯蔵管理、低レベル放射性廃棄物の埋設という事業をおこなっています。従業員数の約65%の方が青森県の出身者であるとのことです。
     六ケ所原燃PRセンターで、各事業のあらましについて説明を受けた後、2班に分かれ、ウラン濃縮工場、再処理工場などの「原子燃料サイクル施設」について、パネル・大型模型・映像で案内スタッフの方から説明をお聞きしました。その後、バスに乗車して、車中から「ウラン濃縮工場」、「低レベル放射性廃棄物の埋設地」、「使用済燃料受入・貯蔵施設」、「安全対策工事現場(主排気塔の竜巻対策工事他)」を、また、建物内に入って窓越しに「使用済燃料受入れ・貯蔵施設」、「再処理工場中央制御室」を視察しました。
     建物内(管理区域)への入退出では、本人確認書類に加え、生体認証、金属探知機などで、極めて厳重に管理されていることに安心感を覚えました。
     エネルギー資源のほとんど大部分を海外からの輸入に頼らざるを得ない日本にとって、原子力発電所の使用済燃料を化学処理することによって、ウランとプルトニウムを取り出し、「MOX燃料(Mixed Oxide Fuel:混合酸化物燃料)」に加工して、発電所で再利用するという「原子燃料サイクル」は、日本のエネルギー安定供給にとって重要であり、エネルギー資源のリサイクルといえます(資源循環)。


    (参考:使用済燃料 再処理の工程)

    ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ地区侵攻など、世界情勢の変化による化石燃料供給の不安定化が懸念される状況下、エネルギーの安定供給に資する「原子燃料サイクル」への期待は、高まっています。
     また、発電時にCO2を排出しない原子力発電は、再生可能エネルギーとともに脱炭素への貢献が期待されます。
     しかしながら、「再処理工場」の「使用済燃料貯蔵量」は、その設備容量の99%程度に達し、現在、新たな使用済燃料の受入を中止しており、また「再処理工場」のしゅん工時期は2026年度中(2024年10月時点)とのことでした。「再処理工場」が使える状態になることが、エネルギーの安定供給に重要であることを理解しました。


    六ケ所原燃PRセンター 集合写真

    案内スタッフによる説明

  4. 量子科学技術研究開発機構 六ケ所フュージョンエネルギー研究所

     量子科学技術研究開発機構 六ケ所フュージョンエネルギー研究所は、核融合反応で発生するエネルギーにより電力を生み出す発電システムの研究をおこなっています。CO2を排出しない核融合は、核分裂と違い反応の暴走が起こりにくく、発生する放射線が少ないため、安全性が高いとされています。また、燃料である重水素は海水に豊富に存在することから枯渇することがないといった利点があり、人類の未来を切り開くエネルギー源といえます。
     RECルームで、六ケ所フュージョンエネルギー研究所の概況について説明をお聞きし、PR動画を視聴した後、3班に分かれて、LIPAc(Linear IFMIF Prototype Accelerator:国際核融合材料照射施設原型加速器)遠隔試験室、スパコン、原型炉R&D棟、ブランケット棟を視察しました。


    (参考:核融合)


    核融合とは、水素のような原子核どうしが融合して、ヘリウムなどのより重い原子核に変わることです。水素の仲間(同位体)である重水素(D)と三重水素(T)の原子核が融合するDT核融合反応では、ヘリウムと中性子ができます。
     核融合反応が起こると、非常に大きなエネルギーが発生します。融合反応が起きる前の重水素(D)と三重水素(T)の重さ(質量)より、融合反応が起こった後のヘリウムと中性子の重さの方が軽いので、その差の分だけの質量がエネルギーに変わるからです。

    出典:誰でも分かる核融合のしくみ | 核融合とは? - 量子科学技術研究開発機構 (qst.go.jp)


     六ケ所フュージョンエネルギー研究所では、「核融合実験炉イーター(ITER)」を建設する大型国際共同プロジェクト(日本・EU・US・ロシア・韓国・中国・インド)を支援するとともに、フュージョンエネルギーによる発電を初めて実証する「核融合原型炉」の早期実現に向けて、ITERを補完する研究開発を推進しているとのことです。
     最新鋭のスーパーコンピュータを用いたプラズマ挙動研究、核融合炉材料の中性子照射影響を検証するために核融合反応で発生する高エネルギーの中性子を模擬する加速器型中性子源の開発、核融合炉においてエネルギーを熱として取り出すとともに、燃料を製造する「ブランケット」の開発、燃料製造に必要なリチウムを海水から回収する技術やCO2の排出を抑制してベリリウムを精製する技術などを開発しているとのことです。
     各分野の研究者の方々から専門的な内容について説明をお聞きした後、参加者からの質問について、研究者の方々が丁寧に回答してくださいました。
     核融合発電は、燃料として重水素を使います。重水素は海水に豊富に存在することから、エネルギーの安定供給に貢献できること、また、CO2やNOX、SOXを排出しないことから環境負荷を軽減できること、放射性廃棄物の生成が少なく、その放射能は100年で100万分の1に減衰することから、核融合発電は、未来のエネルギーとして期待されています。現在、核融合の実現を目指して、技術的課題の解決に向けた研究・試験が進められている段階です。


    概況説明・PR動画視聴

    各研究者の方々による説明

《視察を終えて》

 2024年度EPOC視察会は、「生物多様性」・「脱炭素」・「資源循環」をテーマに実施しました。
 「生物多様性」では、「白神山地ビジターセンター」で白神山地の全体像を把握し、「白神山地 世界遺産の径 ブナ林散策道」の調査において、ネイチャーガイドさんの説明を聞きながら、実際に人為的な影響をほとんど受けていない原生的なブナ天然林、その中で多様な動植物が生息する生態系が保全されている状況を体感しながら、「ネイチャー・ポジティブ(Nature Positive:自然再興)」の重要性を痛感しました。
 「脱炭素」・「資源循環」では、「日本原燃株式会社」の原子燃料サイクル施設(再処理工場、ウラン濃縮工場、MOX燃料工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、低レベル放射性廃棄物埋設センター)、「量子科学技術研究開発機構 六ケ所フュージョンエネルギー研究所」を視察しました。
 エネルギー資源の大部分を海外からの輸入に頼らざるを得ない我が国にとって、原子力発電は再生可能エネルギーとともに「エネルギー安定供給」に貢献する大切な電源であり、使用済燃料の再処理、高レベル廃棄物処理といった課題に取り組む重要性を再認識するとともに、核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)の研究開発状況について理解を深めることができました。

最後になりますが、EPOC視察団を快く受け入れてくださり、丁寧なご説明・ご対応を頂いた視察先のみなさまに、この場をお借りして御礼申し上げます。