EPOC視察会(企画活動)
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日時: | 2021年11月11日(木曜日) |
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目的: | EPOCでは2030年ビジョンを策定し、「環境イノベーション」や「パートナーシップ」に重点をおいて活動を推進している。今回は、20周年記念フォーラム(2020年10月)で取り上げた神戸での水素実証事例をはじめとして、設立以来、数多くの研究成果で科学技術の進化や学問の発展に寄与している先端研究施設Spring-8の見学を通じて、イノベーションについて深く考える機会を提供することを目的とする。 |
視察先: | ★先端研究施設 |
参加者: | 20名 |
各施設の見学内容
- 理化学研究所 播磨キャンパス様
1997年の供用開始以降、四半世紀にわたり生命科学や環境・エネルギー、新材料開発など様々な分野の研究開発に貢献されてきました。SPring-8は世界最高性能の放射光を利用することができる実験施設であり、その施設名は最大加速エネルギーが80億電子ボルトに由来してSPring-8(Super Photon ring 8GeV)と名付けられています。現在は技術の革新が進み6GeVで従来以上の性能を実現しているとのことです。また、SACLAはSPring-8で発生される光よりもさらに明るい「X線自由電子レーザー」を発生させ、それを使って物質の極めて速い動きや変化の仕組みを原子レベルで解明する世界最高性能の研究施設です。
視察では最初にセンター長の石川様より施設の概要をはじめ、装置の原理も交えながら様々な分野における研究事例などをご紹介頂きました。また、普及棟ロビーに設置されたSOR-RINGとよばれるわが国最初の電子蓄積リングを使ってSPring-8の基本構造について解説頂きました。これにより一目で施設の全体像を理解するのに大変役立ったとともに、日本の放射光研究の歴史の重みを実感することができました。
写真1 石川様による施設紹介
写真2 SOR-RINGその後、SPring-8の蓄積リング棟で詳細の説明を頂きました。高い解析能を担保するために巨大な一枚岩の岩盤上に立地していることや、加速器本体を収納する筐体と建物を物理的に切り離していること(写真3)など、変動や安定性阻害につながる要素を徹底的に取り除く工夫が随所にみられ、ナノレベルの微細な解析を実現するために巨大な施設を高精度で設置運用することの重要性と技術力に感心させられました。
また、SACLAでは約700m(写真4)にも及ぶ直線の施設内で加速器やアンジュレータの働きや、この装置によりピコ秒のさらに短いフェムト秒の世界の現象を可視化できること、そしてそれによりこれまでは観測できなかった化学反応や物理現象、構造解析などが行えるようになったことを学びました。特に、触媒は「化学反応においてそのもの自身は変化しないが、反応速度を変化させる物質」と一般的に言われているが、実際は従来の技術ではその変化を観察できなかっただけで、SACLAの技術により触媒の働くメカニズムも解析できるようになったという説明は、参加者一同、大きな驚きをもった一方で、非常に納得させられました。
さらには可動率が99.8%を維持しており、その為の日常管理や定期保全を地道に実施されているだけでなく、運営コストを改善するために実験施設自体のエネルギー効率の改善などにも取り組まれているなど、工場運営にも通ずる一面も教えて頂きました。
写真3 切り離し部(緑線部分)
写真4 SACLA施設内部
写真5 参加者の皆様(展示施設にて) -
液化水素荷役実証ターミナル @神戸空港島
水素社会実現に向けて2030年の商用化を目指して、オーストラリアで褐炭を原料とした水素製造を行い、長距離大量海上輸送の技術・安全・運用上の成立性を実証するプロジェクトにおける日本側の荷受基地であり、ローディングシステムや液化水素タンク、BOG圧縮機等の補器類で構成される水素を「はこぶ」ための施設です。
視察では、最初に空港会議室にて川崎重工業様より水素に関する国際動向や水素戦略をはじめ、水素サプライチェーンの取り組みなどプロジェクトの全体像を丁寧に説明頂きました。温暖化対策という側面だけでなく、エネルギーセキュリティや日本の強みを生かせる分野という大きなメリットなど、環境イノベーションの本質に迫る取り組みであることを理解することができました。
現場においては執行役員の西村様から施設詳細について説明頂きました。液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」が日本近海での3週間程度の試験航海を終え、日豪の片道相当分の距離を予定どおり航行できたことや、途中、台風等の影響も受けたことにより実用化に向けた貴重なデータが取れたことなど、まさに国際サプライチェーンの実現に向けて着実に前進していることを教えて頂きました。また、船員の方の居住空間にも配慮されており、実用化をリアルに想定したものづくりから国際水素サプライチェーン実現に向けた本気を感じました。
当日は「すいそふろんてぃあ」が停泊しており、参加者一同、日豪水素サプライチェーンがまさに目の前にあることを実感できたのではないでしょうか。
写真6 すいそふろんてぃあ
(場内撮影不可のため神戸スカイブリッジより撮影) - 水素CGSスマートコミュニティ実証地 @神戸ポートアイランド
水素社会実現に向けては大規模な水素サプライチェーンの実用化によって水素コストを低減することが重要課題であり、水素を大量に「つかう」ことが同時に必要となってきます。その為に水素コジェネレーションシステムを開発し、「電気」「熱」に加えて「水素」エネルギーの効率的な利用に向けた技術開発・実証を行っています。
この開発は既存ガスタービンをベースに水素用に燃焼器を改良するアプローチで行われ、燃焼速度が速く、燃焼温度が高い水素の特性に合わせた燃料ノズル構造や低NOx化技術を実現しています。
既存ガスタービンを使用できることにより、多くの事業者において水素コジェネレーションシステムへ移行することへのハードルが下がるため、需要の創出によってサプライチェーン構築との好循環が回ることが期待されます。
見学では、開発技術に関する質問だけでなく、起動特性など実際の使用を想定した具体的な質問が多く、カーボンニュートラルへの各社取り組みの候補技術としての関心の高さを強く感じました。
写真7 西村様による施設紹介
写真8 参加者の皆様(水素ガスタービン前にて)
視察を終えて
今回はEPOC2030年ビジョンの心である「環境イノベーション」と「パートナーシップ」の中から、特に「イノベーション」に関連した施設を見学しました。
水素実証事例については、昨年からEPOCで繰り返し発信している「環境イノベーションは環境改善に留まらずに社会を変革し、日本の豊かさにつながる」という想いをまさに体現しようとされている事例であると改めて実感するとともに、中部圏においても水素の需要を創出し、社会全体で取り組んでいくことの重要性を教えて頂きました。
また、理化学研究所 播磨キャンパスでは、現象をとらえるだけでなく、「なぜ」起こるのか?という原理原則に迫ることによって生み出されるイノベーションの社会的なインパクトや重要性を体感することができました。
いずれの施設におきましてもトップの方々から直接お話を伺い、また自らの目で見て感じることを通して、知見を広めることができ、大変有意義な時間を過ごすことができました。本報告書が、視察に参加された皆さまをはじめ、EPOC会員の皆さまの参考になれば幸いです。
最後になりますが、視察団を快く受け入れ、惜しみなく知見をご教示頂きました各視察先様に、この場をお借りして深く御礼を申し上げます。