視察・調査

〜 海の恵みと森の恵みに配慮したサステナブル調達の現状 〜
自然共生分科会/海外チーム共催 オンライン視察(セミナー)

はじめに

 COP10名古屋の開催から10年が経過し、ポスト愛知目標、SDGs、IPBES、カーボンニュートラルなど生物多様性の消失を食い止める為の活動が加速し、あらゆるシーンで持続可能な社会の実現に向けた行動が求められるようになってきました。
 今年もコロナウイルス感染防止の観点から、オンラインでの開催となりましたが、「海洋や森林の天然資源のサステナブルな調達」に着目し、国内をはじめ東南アジアなど海外における天然資源の持続可能な調達を可能にするための様々な活動と調達する立場で配慮しなければいけない項目について現地の映像を交えて視察・学習致しました。

開催日: 2021年10月6日(水曜日)
形式: Web会議形式(Zoomウェビナー)
講師: WWFジャパン
    気候エネルギー・海洋水産室 室長 山岸 尚之氏
気候エネルギー・海洋水産室 海洋水産グループ 吉田 誠氏
森林・野生生物室 森林グループ 岩渕 翼氏
気候エネルギー・海洋水産室 海洋水産グループ 滝本 麻耶氏
森林・野生生物室 森林グループ 南 明紀子氏
参加者: 104名+見逃し配信118名

(講師各位と運営事務局)

プログラム

14:00〜14:10
【開会挨拶】

EPOC自然共生分科会長 挨拶
ブラザー工業株式会社 気候変動対応戦略部
部長  藤岡 昌也 氏

14:10〜14:25
【2030年までに生物多様性を回復軌道に】

WWFジャパン 気候エネルギー・海洋水産室 室長  山岸 尚之 氏


 WWFジャパンが毎年報告している「生きている地球レポート2020」より、世界の生物多様性の豊かさを測る指標を用いて、1970年から2016年の間に脊椎動物の約4,400種、約21,000個体群は68%減少している現状と、2020年までの生物多様性に関する目標「愛知目標20項目」内で完全に達成できた目標が一つもなかったことをご説明頂きました。
 WWFジャパンでは2030年までに「自然生息地の減少をゼロに」「種の減少をゼロに」「フットプリントを半減」を目標に活動し、生物多様性の下降傾向を上昇傾向に反転させ、回復軌道(ネイチャー・ポジティブ)に乗せる取組みを推進していることを学びました。「回復」する行動が重要なことを認識できました。

14:25〜15:10
【海洋水産グループの活動、生産現場における持続可能性の向上】

WWFジャパン 気候エネルギー・海洋水産室 海洋水産グループ  吉田 誠 氏


 今回は、日本のサケ・マスの供給量の1位(約42%を供給)であるチリのサーモン養殖現場の活動を取り上げ、持続可能なサーモン養殖へ転換する取組みだけでなく野生生物の生態調査や海洋保護区の拡大と適切な管理事例を構築する活動も動画や写真を交えて、ご説明頂きました。
 チリでの養殖が年々増加しているものの、その過程では養殖のエサによる水質汚染や野生生物の生息環境への影響、外来種であるサーモンの脱走などによる生態系のかく乱など、養殖企業と地域住民との対立問題や課題があったことを知りました。WWFさんはこれらの課題を解決するため、ASC認証の取得を働きかけ、現在では約4割の養殖業者でASC認証を取得するなど、持続可能なサーモン養殖を目指す取り組みを行っていることを教わりました。
 ASCのサケ基準には法令順守、自然環境への配慮、地域社会・労働環境への配慮が謳われており、ASC認証品に対する信頼が高まりましたが、チリ産養殖サーモンの持続性を確保するためにはASC認証以外にも対処しなければいけない課題が残っていることを知り、持続可能な漁業、養殖業を実現することの難しさも理解することができました。

15:10〜15:55
【トラの住む森を守る持続可能な天然ゴムに向けて】

WWFジャパン 森林・野生生物室 森林グループ  岩渕 翼 氏


 トラが減少している地域(特に東南アジア)では、森林破壊が特に激しい地域と関係性があり、トラを守ることで他の生き物や森全体が守られる「アンブレラ種」として、健全な森がある証拠としてトラの保全活動を行っていることをご説明頂きました。
 また、トラが生息するためには広大な森を必要(愛知県の面積でインドシナトラは15匹しか生息できない)とするために、トラを保全することで広大な森を保全する活動に繋がることを学びました。
 さらに、農地開発などによる森林減少も進んでおり、その要因として、日本が輸入している紙パルプや天然ゴム、パーム油などが寄与していること、日本の生活が一人当たり年間2本の木を減少させることで成り立っていることに驚きました。
サプライチェーン全体で生態系保全や生産者の貧困や人権など、森林減少の原因となる産品に目を向け、消費者や販売者、一人ひとりの生活を変えなければ、トラの保全や森林減少を食い止めることができないことを学びました。

15:55〜16:20
【森の恵みと海の恵みに配慮したサステナブル調達の現状】

WWFジャパン 気候エネルギー・海洋水産室 海洋水産グループ
滝本 麻耶 氏
WWFジャパン 森林・野生生物室 森林グループ
南 明紀子 氏


 これまで、生産現場の現状や取り組みなどを紹介いただきましたが、サステナブルな調達を実現するためには、使う側のわたしたち消費者がどのような視点を持つべきか、が重要であることを教えて頂きました。
 「生きている地球指数(海洋版)」を用い、人が利用する魚種が1970年から2010年までの間に50%減少、またサバ科の魚種(マグロ・サバ・カツオ)では74%減少していることをご説明頂きました。日本では魚離れが多いと言われているが、世界では約5倍食用魚介類の消費量が増えているという事でした。消費を支えるために養殖業の生産量も増加しているが、世界の漁業資源の状況の推移をみると乱獲(獲りすぎ)が30%、十分にあるという魚種は10%も満たないことをご説明頂きました。

 乱獲されていない海洋資源を選ぶためには、MSC認証やASC認証を選択することが、サステナブル調達として有効であり、現在では社員食堂の社食で利用する企業もいることを教わりました。自社のサプライチェーンが「環境破壊」「人権侵害」とは無関係な関係を構築できているのか確認するとともに、私生活においてもMSC認証やASC認証、レインフォレスト認証等の認証を取得している商品を選択することから始めていきたいと感じました。

16:20〜16:40

【質疑応答】

Q1.  日本でもASC認証の養殖を行っているところがありますか?その中で見学させていただけるところがあれば教えていただけますか?
A1. 日本にもMSC/ASC認証を受けているところはいくつかあります。日本で初めてASC認証を取得した宮城県のカキや宮崎の黒瀬水産、ブリの東町漁協などはWWFも現地で一緒に活動しましたので、WWFを通じて見学をすることは可能だと思います。

【参加者の感想】

「つかう責任」として企業ができることは何かを学ぶために参加される方が多く、製造業やサービス業などの調達に関係する部署の方が多く参加されていました。

  • サステナブル調達が生物多様性にもたらす影響の大きさ、一消費者として意識を持つ重要性に気づかされました。勉強になりました。
  • 社食業務に携わっているうえで認証を受けた食材の調達が必要となってくることを実感しました。
  • 環境回復というところに興味がありました。海洋資源というところでは、海洋プラスチック対応ぐらいしか頭になかったので、WWFの取組みが参考になりました。
  • 調達部門に携わる立場としてサプライチェーンを自分自身でモニタリングをし続ける大切さを学べました。
  • 次回も現場での活動がわかるようなオンライン視察を期待しています。
  • 世の中の動向がわかり、当社が進めるべき方向性に気づきがありました。