2020年度 オーストラリアにおけるウミガメの保全活動とマイクロプラスチック問題に関するオンライン視察
はじめに
COP10名古屋開催から10年が経過し、ポスト愛知目標、SDGs、IPBESなど生物多様性の消失を食い止める為の研究・計画・施策が活発化する中、今回はテーマとして「海洋汚染による生態系への影響」に着眼しました。新型コロナウイルス感染防止の観点から初のオンラインでの視察を企画することになり、日頃なかなか訪問することができない南半球のオーストラリアを訪ねて生物多様性の保全など環境保全活動の取組みを視察・学習しました。
開催日: |
2020年11月18日(水曜日) |
形 式: |
Web会議形式(Zoomウェビナー) |
中継地: |
オーストラリア(クイーンズランド州 ゴールドコースト) |
講 師: |
水野哲夫氏(オーストラリア日本野生動物保護教育財団 (AJWCEF)財団理事長) |
参加者: |
112名 |
プログラム
13:30〜13:40
開会挨拶
EPOC自然共生分科会長 挨拶
ブラザー工業株式会社 法務・環境・総務部
環境推進グループ 藤岡 昌也氏
(講師を含むパネリストの皆さん)
13:40〜14:00
【オーストラリア日本野生動物保護教育財団 (AJWCEF)の 紹介】
オーストラリア日本野生動物保護教育財団 (AJWCEF) 財団理事長 水野哲夫氏
オーストラリア日本野生動物保護教育財団 (AJWCEF)の活動概要についてご説明いただきました。
- オーストラリア日本野生動物保護教育財団を設立したきっかけは?
クイーンズランド州に生息しているコアラのほぼ100%がウィルスに感染、その他の州でもかなりの確率でウィルスに感染(さらに日本のコアラも何らかの形で100%ウィルスに感染)していることや、クイーンズランド州のコアラが人的な要因で80%減少してしまったことなど、現実の姿を知っていただきたいと思い、オーストラリア日本野生動物保護教育財団を設立しました。
- 現在のオーストラリア日本野生動物保護教育財団の活動について
自然環境の現状や野生動物の現状を正確に伝える教育、啓発活動と現場で傷ついた動物や環境を修復、救護する第一線での活動を支える活動が柱となっています。日本人などに対してオーストラリア現地で環境保護のトレーニングやスタディツアー、セミナーを実施することで得ることができた収益を第一線で活動している団体や、個人に資金援助をしています。
13:40〜14:25
【「Aqua」視聴】
デイビッド・ハナン氏(ノースストラッドブローク島)による海洋ドキュメンタリー「Aqua」を視聴しました。
- 美しい映像と共に現在海で何が起きているのか、私たちはどのように対応していけばよいのかを問いかける動画となっておりました。
(「Aqua」の視聴)
(ゴールドコーストの様子を視聴)
サテライト会場を利用して複数の方が視聴する企業様の様子
14:25〜15:10
【講演概要】
「海洋ごみと海洋生物〜ウミガメへの影響を中心に〜」
昨今話題となっている海洋ごみ、特に海洋プラスチックについてご講義いただきました。
世界では年間平均約800万トンのプラスチックごみが海洋へ流出しているとされ、そのうち約80%は陸上で不適切に投棄されたものが海に運ばれたと考えられています。
オーストラリア海岸における海洋ごみの種類やその発生源を分析したところ、約40%がプラスチックごみとなっており、その影響は無視できないものとなってきております。海洋ごみは風や潮の流れによって国外から流れてきてしまうため、根本的に解決するためには、世界が協力して取り組むことが不可欠となります。
海洋プラスチックごみによる影響を大きく受けている生き物がウミガメです。ウミガメが受ける主な影響として「誤食による栄養失調」「異物により内臓が傷付き腸閉塞、敗血症を起こす」などが起こっています。その原因としては「ごみが餌(クラゲなど)に見える」「若いカメは深く潜れないため海面に浮かんでいるごみを意識せずに飲み込んでしまう」「解剖学的に異物を吐き出しにくい喉をしている」などです。ウミガメ以外に、ペリカンやアホウドリなどの海鳥によるプラスチックごみや釣り針の誤食についても写真を使ってご説明いただきました。
次に、マイクロプラスチック(5mm以下の微小なプラスチック)についてご講義いただきました。マイクロプラスチックにはスクラブなどの一次性マイクロプラスチックと買い物のビニール袋などの二次性マイクロプラスチックが存在し、少なくとも5兆個が海洋表層に付着し、1400万トンが世界の海底に堆積していると推測されています。マイクロプラスチックの添加剤や表面に付着する疎水性物質が食物連鎖を通して人間にも影響を与えることをわかりやすくご説明いただきました。
最後にオーストラリアのプラスチック製品の現状として、2大スーパーチェーンがプラスチック買い物袋の使用を禁止したところ3ヶ月で15億枚削減できたことやオーストラリア全土のほとんどで埋め立てによるごみの処理を行っていることを教えていただきました。
(海洋プラスチックごみの状況)
(海洋ゴミの分布状況)
(アカウミガメの産卵の様子)
(ウミガメが誤食した海洋ゴミ)
(誤食で死亡した海鳥の胃の内容物)
(食物連鎖による人への影響/警告)
15:10〜15:25
【質疑応答】
- 海洋プラスチックを削減するために必要なことは何ですか?
人々が意識を高めることですが、具体的にはできるだけプラスチック製品の利用を控える、特に1回だけで使い捨てとなるプラスチック製品の使用を控えることと適正な廃棄を行う、どうしても使用しなければいけない場合は生分解性プラスチックを使用することを心掛けることです。
- 生分解性プラスチックは特殊な環境ではない自然界でも分解されますか?
環境条件によって分解時間が異なるため、自然界での分解時間を測定することは大変難しいため、できるだけプラスチック製品の利用を控えていただくことになります。
- オーストラリアのプラスチックごみの対策は?
オーストラリアはごみを埋め立て処理しているため、日本と比べてごみの分別が非常にアバウトでリサイクル率が低いです。まずは日本の行政や企業の最新のリサイクル技術を取り入れていく必要があります。
- オーストラリアの大火災の影響は?
日本の国土の半分が焼失し、30億頭の自然動物が被害にあいました。オーストラリアでは治療が終わったら住んでいた場所に戻さなければいけない法律がありますが、その場所が焼失してしまっているケースがあり、収容している保護施設で数年間いかに健康を維持しなければいけないか、ルールからは外れるが別の健全な森が確保できるかが問題となっています。人的な支援の不足、財政的な支援の不足が深刻になっているため、経済的な支援をお願いしたいと思います。
- 日本とオーストラリアの野生動物保護活動の違いは?
日本は人間社会と野生動物の社会が隔離されており、里山が発生しています。オーストラリアでは野生動物と共存しているため、子供のころから知識や身を守る方法を教えています。野生動物保護活動は、日本では研究調査活動、オーストラリアでは研究調査活動が情報公開され、市民に根付いた活動になっています。
【参加者の感想】
(アンケートより一部抜粋)
- どの内容も現実の問題を詳細に取り上げられており大変参考になった。
- アホウドリのひな鳥の写真(親鳥が餌と間違えて海洋プラスチックごみを雛鳥に与えたため、内臓にプラスチックごみがたまっていたという写真)には衝撃を受けた。
- 動物保護の専門家の立場で現場の生の状況をお伝えいただき大変勉強になった。
- 日本とオーストラリアの国情の違いと、海洋プラスチックごみの悪影響が具体的に分かった。
- ショッキングな画像も多く、改めて真剣に海洋プラスチックごみについて考える必要があると感じた。
- ニュース等では聞いていたが、実際に人間にも被害があった過去例なども交えてリアルな内容だった。
- 分解されないバイオマスプラスチックがあるなど、知らないことが多く勉強になった。
- 現地との中継、動画、講話がセットになり、実際に視察を行ったような構成でよかった。