視察・調査

2018年度第1回低炭素社会分科会視察「名城変電所・西名古屋火力発電所」実施報告

概要

日時: 2018年6月7日(木)10:00〜15:30
視察先:
中部電力株式会社  名城変電所
(愛知県名古屋市中区三の丸一丁目1番地)
  西名古屋火力発電所
(愛知県海部郡飛島村東浜3丁目5)
参加者: 26名(EPOCメンバー)
目的: 名城変電所は全国で2例目となる都市公園地下変電所であり、名古屋都市景観賞を受賞した全国にも類を見ない変電所である。西名古屋火力発電所は、世界最高の熱効率・最新鋭の火力発電所である。この両施設を併せて視察することにより、大都市圏に電気を安定的に供給する、「コンセントの向こう側」の技術を理解する。
所感: 名城変電所は一見すると入口がどこにあるのか分からず、名城公園という市民の憩いの場に溶け込み、都市と共生していた。西名古屋火力発電所は非常クリーンかつシンプルな施設であった。世界最高の熱効率を誇る火力発電所と、そこで作られた電気を可能な限りムダなく消費地まで送り、受け取るための超高圧変電所、この両施設の組み合わせに代表される高度な電力系統をより発展させていくことが、低炭素化社会を実現させるための有力な方法の一つであると感じた。

(1)事業概要

○中部電力の概要

中部電力は1951年に設立された。主に中部地域での電力の安定供給を使命として、その営業地域を広げてきた。2016年現在では、販売電力量1,218億kWhと国内2位の規模をもつ。近年は基盤である中部地域外にも事業を拡大しており、2015年には東京電力との共同出資でJERAを設立し、化石燃料の調達から日本国内外の火力発電所の運営までを一貫して担うことを目指している。
主要な火力発電所としては、LNG火力発電所が7ヶ所(内新潟県に1ヶ所)、石油火力発電所が2ヶ所、石炭火力発電所が2ヶ所(内1ヶ所は建設中)あり、多くは伊勢湾に沿って並んでおり、中部圏に電力を供給している。

○電気の流れ

電力会社で発電する電気は大容量のため、発電所も大規模になる。すると土地の確保の面から、どうしても都市部から離れた場所に発電所を設置する必要が出てくる。電気は発電所から家庭に届くまで長い距離を経て送られてくるが、最初から家庭で使用する電気(100V・200V)で送電すると大きな抵抗がかかり、ロスが多くなってしまう。そこで、市街地の近くまで超高圧の電気で送ることでロスを少なくしている。
超高圧の電気は一度で100V・200Vにすることができないので、段階的に各変電所で変圧している。発電所で作られた1万〜2万5,000Vの電気は、各発電所で27万5,000V〜50万Vという超高電圧に変電されて送電線に送り出される。これを、各地に設けられた超高圧変電所で15万4,000Vまで変電する。その後、1次変電所・二次変電所、配電用変電所を通り、電柱に取り付けられた柱上変圧器で100V・200Vまで変圧され、家庭へと送られる。
また、変電所は設備形態により3種類に分けることができる。変電所の多くを占める「屋外変電所」では、変圧器や遮断器などの主要な機器は屋外に、制御装置などを建物の内部に設置している。「屋内変電所」では、主要変圧器や制御機器などをすべて建物内に設置しており、周辺環境との景観の調和もとりやすく、屋外変電所よりも狭い敷地面積で建てることができる。「地下変電所」では、都市部のビルや公園などの下に変電所を建て、変圧器などの主要な機器を地下に設置することで、土地を有効に活用している。

(2)名城変電所

○名城変電所の特徴

名城変電所は、超高圧変電所かつ地下変電所にあたり、全国で2例目となる都市公園地下変電所である。吸排気塔・エレベーター塔に瓦屋根・白壁・石積みを使用し、名古屋都市景観賞を受賞した全国に類を見ない変電所である。
名城公園正門前駐車場の地下を借りて作られており、地下5階の構造になっている。地上部分、地下2階は公共の名城公園正門前駐車場、地下3〜5階は名城変電所として使われており、ガス絶縁開閉装置・ケーブル処理室、制御室・主要変圧室・リアクトル室等の施設が置かれている。
地下5階床面の深さは28.2mで基礎部分は32.5mに及んでいる。地下に造ることで、台風や地震などの災害に強く、有事に際しても安定した電力を供給することが可能である。

○地中送電線(洞道)

発電所から電気を送るには、鉄塔に電線を張った架空送電線と、洞道というトンネルにケーブルを通す地中送電線の二つの方法がある。市街地では新たに鉄塔を建てることが難しいので、地中送電線を使い電気が送られている。
洞道は「シールドマシン」という地中を掘り進む機械によって造られた。直接地下を掘り進むので、工事の際に道路部分での作業が少なくて済み、工期の短縮が可能となった。また、地下鉄や地下街の下を通っていくため、地下10〜40mの深さに造られている。
洞道は最大のもので直径4.8mの大きさがあり、通路があるので保守点検作業をすることができる。また、将来の電力需要の増加を見越し、拡張性のある設計になっている。

洞道を通るケーブル(地中送電線)は、ポリエチレンなどの電気を通さない材料で保護してあるため、触っても感電しない。また、架空送電線は軽量化のためにアルミを材質としているが、地中送電線は重量よりも電気抵抗の低さを重視し、材質には銅を使用している。ケーブルには「スネーク」と呼ばれる波がつけてあり、通電時の熱による伸縮力を逃がしている。
従来の洞道へのケーブル設置工事には、トラックにより運ばれたケーブルを道路上から工事を行い搬入していたが、名城変電所ではケーブル運搬用の船を新造し、堀川を使い搬入した。この方法で、今までの3倍の長さの1,800mのケーブルを運ぶことができ、道路工事の必要もないので工期の短縮と費用の節約が実現できた。ただし、堀川に架かる橋の下を潜って輸送する都合上、水深が低くなる干潮時にしか船が通過できず、その運搬には多大な苦労を伴った。

○ガス絶縁開閉装置

27万5000Vで送られてきた電気の流れ方を変えたり、故障した箇所を切り離したりする「スイッチ」の役割を果たすのが、「ガス絶縁開閉装置(GIS)」である。遮断は非常に高速で行われ、落雷が起きても瞬時に電気の流れを遮断することができる。
従来は装置同士の間隔をあけないと放電するため広い空間が必要だったが、電線・スイッチなどの装置を絶縁性の高い六フッ化イオウガス(SF6)を封入した金属タンクで密封することにより、従来の装置に比べ面積で1/14、体積で1/32とコンパクト化され、安心性と信頼性も向上した。

○主要変圧機

変電所において一番重要な役目である、電気の変圧を行う装置が「主要変圧機」である。発電所で作られた電気を遠くまで効率よく送るには高い電圧の電気でなくてはならないが、逆に使用するときは低い電圧でなければならない。そこで、段階的に電気を変圧する装置が必要になる。名城変電所にある変圧器1台で、一般の家庭での契約電気容量に換算すると、約15万軒分に電力を送る能力を持っている。
主要変圧機は約420tの重量があるので、最下層の地下5階に設置されている。この変圧器は従来の変圧器油に代えて、高い冷却性能と絶縁性能を有するPFC(パーフルオロカーボン)液とSF6ガスを組み合わせた不燃変圧器である。PFC液は従来の変圧器油と比較して1.3倍の絶縁性能があることにより、必要な量が少なくすむ。これにより、変圧器のサイズダウンが可能になった。地下の掘削には非常にコストがかかる(1m深く掘るためにはおよそ1億円)ため、変圧器の小型化に伴うコストダウン効果は著しいものがあった。

(3)西名古屋火力発電所

○西名古屋火力発電所のあらまし

西名古屋火力発電所は、1970年に1・2号機の営業運転を開始以来、順次6号機まで増設し、合計発電出力219万kWの石油ベース火力発電所として、高度経済成長期を含め40年以上にわたり、名古屋市およびその周辺地域の電力の安定供給に大きな役割を果たしてきた。バブル期以降は、夏季需要に対するピーク火力発電所として活躍してきたが、順次出力が大きい発電機は廃止してきた。
その後、火力発電所のあり方を検討し、燃料の消費量と二酸化炭素の排出量を削減し、経済性と環境性能を同時に達成することを目的として、2018年に液化天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電所(7号系列:合計発電出力237万6,400kW)として新たに生まれ変わった。この施設改修により、年間CO2排出量を140万t削減できる見込みである。

○発電の仕組み

西名古屋火力発電所7号系列は、3台のガスタービンと1台の蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電方式(複合発電方式)である。西名古屋火力発電所が運転を開始した1970年には、発電所の熱効率は42%であった。そこから20年間、熱効率の伸びは微々たるものだったが、コンバインド方式の導入により劇的な変化が起こった。西名古屋火力発電所の7号系列は、世界で最も高い熱効率63.08%(低位発熱量基準)を記録している。
コンバインドサイクル発電方式では、最初にガスタービンで発電を行い、次にガスタービンで発生する高温の排気ガスから排熱を利用して、水を沸騰させて蒸気を作り、蒸気タービンで発電を行う。これにより、同じ量の燃料でも、ガスタービンと蒸気タービンの両方で発電することで、より多くの電力を作ることができる。以下、コンバインドサイクル発電方式の核となる各設備について説明する。

1.ガスタービン

圧縮した空気と燃料を混合して燃焼させ、高温(1,600℃)の燃焼ガスによりガスタービンを回転し、直結した発電機で電気を作る。出力は26万1,000kW。ガスタービンは航空機のジェットエンジンと構造がほぼ同じであり、非常に音がうるさいこと、および高温となるため、コンパートメントと呼ばれる箱の中に設置されている。材料は高温に耐えられるよう研究開発されており、次は1,700℃までの耐熱性を目指している。

2.排熱回収ボイラ

排熱回収ボイラは、ガスタービンで発生する高温の排気ガスの熱を利用して水から蒸気を作り、蒸気タービンへ送る。また、排気ガス内の窒素酸化物を低減するための排煙脱硝装置も組み込まれている。

3.蒸気タービン

排熱回収ボイラから送り込まれた高温・高圧の蒸気で蒸気タービンを回転させる。タービン翼の長翼化等により高効率化を実現している。蒸気タービンの冷却には海水を利用している。

4.発電機

発電機は、ガスタービンや蒸気タービンと直結し電気を作る。発電機で作られた電気は、変圧器でさらに電圧を上げて、各地へ送電される。


5.燃料ガス導管

発電所の燃料となる天然ガスは、燃料ガス導管により送られてくる。燃料ガス導管は、名古屋港の対岸にある知多第二火力発電所で分岐し、名古屋港を横断する海底シールドトンネル(海底下30m、総延長約5km)の中に埋められている。

(4)質疑応答

○名城変電所について

Q. 洞道への湧水はあるか?
A. 古い施設ではコンクリのクラックから水が入ることがある。その場合はポンプで汲み出している。
Q. 洞道のコンクリ部分の劣化への対応はしているか?
A. 随時、状態に応じた補修を行っている。
Q. ケーブルの耐久寿命はどのくらいか?
A. 30年となっている。ただし、サンプリングを行い、問題がなければ継続して使用している。
Q. 洞道内の巡視点検の頻度はどの程度か?
A. 半年に一回、付属設備をメインに行っている。洞道内の照明もその際に確認する。
Q. 名城変電所の建設には多額の費用がかかったとのことだが、そこまでしてここの地下に造るメリットはあったのか?
A. 電気を高電圧で、可能な限り電力消費地の近くまで送れることは大きなメリット。遠距離の送電に よるエネルギーロスを考慮すると、コスト面での効果は高い。また、電力系統の安定化にも貢献で きている。

○西名古屋火力発電所について

Q. 東日本大震災の後、各電力会社では一斉に料金の値上げがあったが、中部電力は最後まで粘った。 電気料金に直結する、燃料調達の際の企業努力は何かあるか?
A. 現在はJERAを通して東京電力と共同購入することで、燃料を安く買えるよう努めている。
Q. 石炭火力発電のCO2排出を抑える技術的な方法について何か考えているか?
A. 発生したCO2を大気中に放散する前に捕らえて、地中に貯留する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」という技術の研究も行っているが、まだ実証実験の段階である。まずは、施設全体 の発電効率を上げて、燃料消費量・CO2排出量を減らすのが前提だと考えている。
Q. 蒸気タービンの冷却には海水を使用し、また海に戻しているが、温度は下げて返しているのか?
A. 放水口から出る水の温度差は7度と定められているので、これを遵守している。
Q. 冷却水として海水を汲み上げる際に海洋生物が入ってしまうと思うが、どう対処しているのか?
A. 海水の取り入れ口に網を張ったり、水流発生装置で取水口から生物を遠ざけたりしている。