視察・調査

EPOC低炭素社会分科会
2015年度 第1回低炭素社会分科会視察 CO2低減を目指した発電の取組

はじめに

低炭素社会分科会では、低炭素社会実現に向けた先進取り組み事例や革新技術の調査・研究を通じ、EPOC会員各社のレベルアップと相互交流ならびに連携の促進を図っています。
本年12月のCOP21に向け、国内の電源構成やGHG削減目標の議論が進む中、現在、わが国の発電量の約40%を占めるLNGを燃料とした高効率な火力発電所と、将来のエネルギー源として世界で研究が進められている核融合発電の研究所を視察しました。


日 時:2015年9月14日(月曜) 9時45分〜15時45分
視察先:中部電力株式会社 新名古屋火力発電所(愛知県名古屋市港区潮見町34)
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市下石町322-6)
参加者:35名(EPOC会員)

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    1.新名古屋火力発電所


    外観

    右の集合写真の背景の建物は、水平に長く続く壁面を時間の流れに置換え、楽譜をデザインしている。楽譜は、建築計画の出発点となった1991年がモーツアルトの没後200年に当たることから、モーツアルト作曲の交響曲40番ト短調を選定。音楽という時間の芸術を建築という空間の構成に換え、振幅が大海原の波をイメージさせるなど、海の玄関口にふさわしいデザインとして採用している。

    8号系列発電所を背に集合写真

    コンバインドサイクル発電

    LNGを空気中で燃焼させると膨大な熱を発生させると同時に体積膨張を起こす。この膨張力で先ずガスタービンを回転させ、さらにガスタービンから排出される高温排気ガスを排熱回収ボイラで回収し、高温高圧の蒸気を発生させて蒸気タービンを回転させる。2つのタービンの駆動力で燃料の持つエネルギーを有効に取り出し、効率的に発電する。


    発電出力と熱効率

    発電出力は7号系列:1,458メガワット(243メガワット×6軸)、8号系列:1,600メガワット(400メガワット×4軸)(いずれも気温5℃)。
    熱効率は7号系列:54%、8号系列:58%で、建設時期の10年の違いが技術改良の結果として表れている。

    発電設備の概要

    質疑応答

    Q メガソーラが増えている現在、太陽光での発電量を予測して、火力発電を行っているのか

    A メガソーラが増えた現在、天候に応じた太陽光発電の出力を中央給電指令所で予測し、火力発電等の運用により電力の需給調整をしている。晴雨・昼夜・平日休日で電気の使用量は異なるが、従来火力発電は使用量が減る夜間に停止するなどして需給のバランスをとっていた。しかし、最近は太陽光発電の増加により、電気の使用量が少ない休日で、晴天の昼間に火力発電を停止することもある。


    Q 7、8号機のCO2削減量の違いはどうか。

    A 燃料の消費量がCO2排出量となるので、出力差を考慮しなければ、おおよそ7号系列54%と8号系列58%の発電効率の差4%程度削減と考えれば良い。


    Q 地震対策・津波対策の取り組みは?

    A 比較的新しい建物で、設備などは十分な耐震がある。地震の震動で3600rpmの高速で回るタービンの回転側と固定側が接触する可能性はあり、タービン、発電機の振動が設定値を超えると自動的に停止するようになっている。津波に対しては敷地の高さがNP+5m(NP:名古屋港平均海面)あり、津波の最大予想高さは4.9mでほぼ大丈夫といえる。更に埋立地全体をNP+6mの防潮堤で囲んでいるため、津波の被害を受けないと考えている。


    Q 発電効率はどのように改善したのか

    A 現在リフレッシュ工事中の西名古屋火力発電所では、「燃焼温度を上げる」「効率の良い大きな設備で発電する」等により熱効率62%を目指している。

    7号系列の第2発電機(7号系列では、この発電機が6軸並ぶ)/階下のタービン、発電機を望む/7号と8号の2系列を制御する中央制御室

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    2.核融合科学研究所


    核融合発電

    原子核が結合し新しく重い原子核がつくられる(核融合)時生じるエネルギーを、熱エネルギーに変換し、タービンを回して発電する発電方式。
    原子力発電は、原子核が分裂して別の軽い原子核ができる(核分裂)時生じるエネルギーを利用した発電。
    原子の力を利用することは同じである。
    エネルギーの枯渇が深刻化する現在、太陽光や風力、地熱など自然エネルギーは、環境に優しいエネルギーだが大規模な発電は困難とされる。

    エントランスの前での集合写真

    大型ヘリカル装置(LHD)

    電気を帯びている原子核・電子(プラズマ)は、磁力線に巻きつくようにらせん状に動く。その磁力線をドーナツ状につなぎ、さらにねじらせ籠状にした磁気容器中にはプラズマを閉じ込めることができる。
    核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)は、この考えに基づいて設計されている。研究所の大型ヘリカル実験装置は同じタイプの実験装置としては世界最大。

    大型ヘリカル装置の模型(制御棟での解説時に使用された)

    制御室

    LHD実験棟とは別の建物の制御棟に制御室がある。訪問時は実験が無く制御室の中に入って話を聞くことが出来た。約200台のコンピュータが整然と並び、まさにスペースシャトルの管制室のよう。この部屋から大型ヘリカル装置(LHD)を制御する。

    制御室(この中で研究所の各施設について解説してもらった)「見学ツアーのご案内」パンフより

    大型ヘリカル装置(LHD)の見学

    らせん状に巻かれたドーナッツ状の超電導コイルが発生する磁場でプラズマを閉じ込める装置。その周囲には超電導コイルを-269℃まで冷却するための液体及び超臨界ヘリウム供給装置や、プラズマの温度を上げるための加熱装置などがぎっしり並ぶ巨大な装置。
    万が一放射線が発生した場合も外部への漏洩を防止する為、建物は分厚いコンクリートで作られている。その出入口のうちの一つには「世界で最も重い扉(ギネス認定)」が設置されていて、見学した。


    質疑応答

    Q 核融合発電においても、「熱交換器」や「回転軸」を使用する点では、火力発電と同じなのか?

    A 現状で蒸気発生後の発電システムは火力と同じである。核融合発電では荷電粒子の電位差をそのまま使用するなどアイデア自体はある。


    Q パンフレットなどには、海水から大量のエネルギーが取り出せる方法として核融合発電があるが、現状発電のために使用するエネルギーはどれくらい必要か?

    A 「発電量」を「使用するエネルギー量」で割った数字を「増倍率」と言うが、1以下では意味が無い。国際協力の下フランスで建設が行われているITERでは10を目指している。これまでにヨーロッパや日本において稼働した装置で行われてきた実験では短時間ではあるが1程度まで実証されている。


    その他、見学途上で研究員から下記の意見を聞いた。

    ※将来を託す長い期間の研究で自分の在職中での完成が難しく、子供に引き継いでほしいとの思いを持っている。

    ※誰が作っても使っても目的が達成できる設備にする・職人的な高度なレベルがあって達成ができる、など、研究にも国民性があること。

    ※(研究者の個人的な意見として)今から10年程度は今の研究が可能だが、その後にどのような方向に研究を持っていくかを考えなければならない時期に来ている。

    ※厳しい予算の中でこの研究は、国是「科学技術立国日本」の研究として理解はしてもらっているが、社会全体の理解を深めて達成してゆきたい。

    実験棟の大型ヘリカル装置を見学する(実験棟は、制御棟とは離れている)