2014年度 企業における生物多様性活動の視察
はじめに
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知・名古屋で開催されて4年が経ち、今年はCOP12が韓国で開催されました。世界は「愛知目標」の目標年である2020年に向けた活動を具体化させてきています。
当分科会では、過去の視察アンケート結果や昨年度実施した研究会での取り組みを参考に、(1)大学等学術界の生物多様性に対する取り組み(2)愛知県の生物多様性戦略と連携した企業の取組(3)事例集に掲載した企業の取組の視察を実施しました。
(1)では、東京大学が100年に亘り無立木地(ハゲ山)の森林再生を行った成果を実際の演習林に立ち入って見学しました。(2)では、2014年5月に開業したばかりのビオトープを視察し、地域や県との連携を含めた最新の自然共生プロジェクトを学びました。(3)では、「非製造業の自然共生への取り組み」、「都市部での自然共生への取り組み」という観点からスーパーの食品リサイクルの現状を視察しました。
一日を通して、自然共生への取り組みの過去と現在や将来を考えながらの視察することが出来、生物多様性の保全に寄与するためのヒントを得ることができました。
開催日時: |
平成26年11月12日(水曜日) |
見学先: |
1.東京大学 生態水文学研究所 2.トヨタ車体株式会社 刈谷 ふれ愛パーク 3.ユニー株式会社、DIDリサイクルセンター |
参加者: |
30名 |
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1.東京大学 生態水文学研究所 <瀬戸市>
【概説】
東大生態水文学研究所は、愛知県尾張東部丘陵にあります。
この地域は、陶器生産の目的で大量に森林伐採され、無立木地(ハゲ山)となりましたが、明治以降100年に亘り、渓間工事や山腹緑化工事などの森林再生に取り組んだ結果、そのほぼ全域が緑で覆われるまでになりました。
私たちは、その中で東京大学が取組んだ森林再生の歴史を学ぶことができました。東京大学では、緑のダムとしての森林の機能を水の流出で評価するために、量水堰にて長期的な観測などを行っています。
東京大学の取組みなどにより、ハゲ山のほぼ全域を森林が覆うようになったものの、山頂付近はまだ花崗岩で覆われており、土壌が元に戻るためには更に長い年月がかかる事を知りました。自然を破壊するのは一瞬で可能ですが、元に戻すには気が遠くなる程の時間と手間がかかる事を実感できました。
参加者から以下のような感想をいただきました
「個人では行けないので、貴重な体験ができた」
「自然の修復には長い年月がかかる事を実感」
「もっと時間を取って広範囲を視察したかった」
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2.トヨタ車体株式会社 刈谷 ふれ愛パーク
【概説】
トヨタ車体株式会社本社・富士松工場は、刈谷北部地域に広がる水田、点在するため池など周辺の水辺環境とのつながりを考え、生きものが暮らせるビオトープを整備されています。西三河生態系ネットワークと連携し社会貢献を通じた地域連携の実践場所として、2014年5月に「刈谷 ふれ愛パーク」として一般開放されました。
創設の目的は、「環境学習」や社員や地域住民の方々が多目的に楽しめる「憩いの場」の提供。雑木林や小川、湿地・水田・畑など、里山をイメージしたビオトープ(生物生息空間)のほか、スポーツで汗を流すことができるフットサル、テニスコート場や広大なグランドも併設されています。
前半の講義では「刈谷ふれ愛パーク」誕生に至るまでの様子や、芋掘り体験などオープン後の地域の方々との交流記についてご講義いただきました。もともとあった水田や梨畑を残し、近隣住民の方々や、小学校の生徒さんたちも気軽に足を運べるようなオープンな場とされたと伺いました。
講義の後に視察させていただいたビオトープでは、雑木林や小川、湿地、水田を順番に拝見し、それぞれの自然環境の特徴や取り組みを説明いただきました。水田には、カエルや、トンボの幼虫がみられ、水中にはホウネンエビ、カルガモのカップルも飛来するとのことです。池には、地域のため池から採取したメダカやモツゴなども生息しており、池まわりの湿地には地域にある水草を移植し、また湿地植物をタネから育てておられます。また、地下水を水源とし、下流の池よりポンプで水を循環させるつくりであること、小川では実際に流れる水音を聴くことができる点…などなど、まさに、五感をフルに研ぎ澄まし自然を身近に感じられる場でした。
企業単体として自然に貢献する取り組みを継続されることはなかなか容易ではありませんが、地域の方々の意見を取り入れ、ともに自然と調和した工場づくりに励まれている姿勢や、子どもたちに自然の大切さを教えていく姿勢は本当に素晴らしく、このような活動こそ持続可能に成長していくために求められている活動の一つとも感じました。また、できたてのビオトープを見る機会はなかなかないため大変貴重な機会となりました。今後の「刈谷ふれ愛パーク」の行方が楽しみです。ありがとうございました。
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3.ユニー株式会社 リーフウォーク稲沢、DIDバイオマスリサイクルセンター
【概説】
ユニー株式会社では、さまざまな廃棄物削減の取り組みを実施しており、その中でも特筆すべき「食品残さリサイクルループ」をリーフウォーク稲沢とDIDバイオマスリサイクルセンターで見学しました。
「食品残さリサイクルループ」は、下図に示すように、まず、ユニー店舗で発生した「野菜くず」、「魚のあら」などを分別・計量して、DIDの生ゴミ堆肥化施設で完熟堆肥を製造します。さらに、その堆肥をJAグループの野菜生産農家に販売し、その堆肥を活用して生産された野菜が再びユニー店舗に並ぶという完全なループが作られています。
特に、店舗で発生する食品残さは、バーコードで種類毎に数量管理され、分別に関する社員教育も徹底されていました。また、店舗のバックヤードには、食品残さを低温で保管する部屋もあり非常に衛生的な印象を受けました。DIDバイオマスリサイクルセンターの生ゴミ堆肥化施設では、プラント投入時の初期含水率が常に60〜65%にコントロールされ、戻し堆肥を使った土着菌による良好な好気発酵を実現しています。そして、90日間をかけて完熟堆肥を生産されていました。
さらに、地方自治体との綿密な調整により、複数の自治体にまたがる一般廃棄物処理の仕組みを軌道に乗せられているとのことで、非製造業の取り組みとして非常に先駆的であると感銘を受けました。