EPOC低炭素社会分科会
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日 時: | 2014年7月24日(木曜) 7時40分〜18時10分 |
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視察先: | 大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所・奈良工場(奈良県奈良市) |
参加者: | 38名(EPOC会員) |
所 感: | 環境配慮型の工場・オフィスの様々な最新技術について、実際の稼働中の現場での運用を見学・体感することができ参考になった。特に奈良工場では、データだけで省エネを説明するのでなく、以前の工場との体感の差を交えた体験談も伺うことができ、より効果をイメージできる視察となった。 |
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1.総合技術研究所
大和ハウス工業株式会社総合技術研究所では、「D'ミュージアム」で大和ハウスの事業の概要を学習後、「テクノギャラリー」で大和ハウスの技術を見学・体験した。
a.免震システム
10人単位で免震台に乗り地震を体験。手すりが無ければ立っていられない阪神・淡路大震災相当の震度6でも、「免震」装置が働くと揺れが大きく軽減されるのを実感する。
b.快適防音室
外張り断熱通気外壁と防音パネルにより、部屋内で演奏する楽器の音が、窓やドアを閉めると外にはほとんど聞こえなくなる。家庭の音楽室の場合、室内の気配が伝わらないと室外の家族が不安になるため、外部に漏れる音量を調整している。数人単位で防音室に入り、室内の反響を体験した。部屋の四隅に設置されたコーナーチューン(吸音材)によって、反響がほとんど無くなることに驚く。
c.外張り断熱通気外壁
窓や外壁での断熱が従来と比較できるコーナー。窓の外に日光を想定したランプが灯っており、従来仕様の部屋に比べ温度が大きく異なるのが体験できる。外張り断熱や通気外壁で、高い断熱と機密を実現している。
d.フレンドリーデザイン
高齢者や障がい者から子どもや妊婦、背の高い人や低い人にいたるまで、すべての人が使いやすいモノづくりをしようというユニバーサルデザインの考え方に基づいて、研究所で開発されたドアなどが展示されている。背が高い人も小さな子どもも使いやすい電気のスイッチの高さ、手や足を挟まない工夫がされたドアなどを実際に体感できる。
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2.奈良工場
概要
操業開始 :昭和40年 戸建住宅生産数 :1,415棟(2012年年間実績) 集合住宅生産数 :467棟(2012年年間実績) 敷地面積 :159,500u 建築面積 :104,940u 奈良工場は1965年から操業しているが、現在防災性や生産性、環境性に配慮して建屋の全面建て替えを実施中。2013年12月に一部新しい工場で操業を開始し、建築部門の環境配慮型工場「D's SMART FACTORY」の実証実験をスタートしている。「D's SMART FACTORY」の大きな柱として、パッシブコントロール(自然の力を活かす仕組み)とアクティブコントロール(創エネ、蓄エネ、省エネ)があり、第一工場では、特に夏場の作業環境改善に取り組んでいる。屋根断熱や約4mの吊庇(つりひさし)による日射遮蔽、気化式冷却ファンの室内冷却効果などにより、旧工場に比べて1.5℃(2013年9月下旬の実績値)温度上昇を抑制している。
a.自然エネルギー利用
建物の立地条件を考慮した形状、配置、開口部の位置や大きさなどを検討した換気経路を設けており、必要最小限の照明のみを点灯している。見学時の晴天7月下旬午後2時ごろは、照明がなくても工場内が十分に明るく、外装パネル工程の一部で照明が点灯しているだけだった。電気照明が無くても、屋根に設置されたトップライトから入る光を光ダクトで拡散し、作業に問題はない。通例、採光のための越屋根(屋根の上に棟をまたいで一段高く設けた小屋根)を設け、日射のきつい南側には開口部を設けないが、奈良工場では東西南北に開口部を設け、紫外線や赤外線を約99.9%カットする日射調整フィルムを採用し有害光線を防いでいる。これらの工夫で晴天時には200ルクス前後の照度が確保でき、積み込み等の作業における照明電力が不要になり、工場内の使用電力削減に貢献できることを実証した。
照明器具としては消費電力の小さい高効率反射板「reFbo Factory(レフボファクトリー)」や高天井用LED照明を導入して、高い照度を確保し、実績値として約3割の消費電力ダウンを実現している。
b.高断熱化
屋根や外壁が受ける日射熱を遮断し、室内への熱の侵入を防ぐ材質や構造を採用。見学当日は35℃を超える真夏日であったが、大規模空調は作動しておらず、ミスト空調のみの工場内でも汗を感じることは無かった。
c.分散光ブラインド
オフィス・工場内に設置しているブラインドは分散光ブラインド。ポリカーボネイト製の薄くて軽いブラインドは直射日光を遮り、かつ部屋内部に光を分散するので、ブラインドを下ろしていても室内は明るい。
d.非常用電源
通常時は太陽光発電、蓄電池の使用で使用電力の平準化を図り、発電機によるピークカットを行っている。停電や災害時には、これらの設備で保安や生産機器の一部をバックアップし、生産活動の継続を図っている。
e.「見える化」による省エネ
電気使用量は、実証中の現時点でも、原単位で20%削減しているという。このデータは「見える化」されており、工場内の各部署に限らず、他工場からも見ることができる。
奈良工場では、建築設備および生産設備のエネルギーを総合管理する「エネルギーマネジメントシステム」を導入している。これは、工場棟、事務所棟、食堂棟で使用する全エネルギーを測定し、太陽光発電システムの発電量や日射量などのデータと合わせモニター画面に表示する。蓄積したデータを元にエネルギー利用の最適化を図るとともに、モニターを工場内や事務所の執務スペースなどに設置して、社員の環境意識向上に役立てている。また、工場内のカメラでリアルタイムのモニタリングができ、異常発生時には速やかな対処を可能にしている。
大和ハウス工業では2009年頃より全社で「エネルギーの見える化」に取り組み、一定の成果をあげてきたものの、改善の伸び悩みが見られるようになった。今後は、情報の共有範囲を広げ、全社員が自然にデータを閲覧することで気づきを得る「見せる化」に取り組み、オフィスや工場のさらなる省エネ提案につなげるという。f.ハイブリッド型太陽光発電
食堂棟には産業用としては日本で初めて、「追尾集光型太陽光発電+集熱ハイブリッドシステム」を採用している。より多くの日射量を得るため、時間帯によって自動的にミラーの角度を変えて効率よく集光する。同時に、太陽熱を集め、熱交換器で温水として回収、食堂棟の食器洗浄などに利用している。
事務所棟に設置している30kWの太陽光発電のうち10kWをリチウムイオン蓄電池に貯め、夜間電力や非常用電源に使用する。g.壁面緑化の大気浄化システム
開発している壁面緑化システムが展示されている。壁面を大地に見立てた発想で生まれた植物に優しい壁面緑化システムで、一体化された垂直の土の壁にセンサーで管理される灌水システムが設置されており、豊かな生態系を生み出すと同時に、建物内の遮熱、防音、空気清浄効果などを発揮する。フレーム内に設置された灌水ホースや土壌水分センサーは、植物の根を施工から数カ月で定着させるという。建築面積の約24倍に相当するとも言われる建物の外壁面を活用し、農業適地が不足する都市部において野菜や果物をはじめさまざまな植物が栽培できるという。
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