セミナー

2024年度 自然共生分科会(海外チーム共催)
 自然共生分科会セミナー


はじめに

EPOC自然共生分科会では、2030年生物多様性国家戦略目標である「ネイチャーポジティブ」「30 by 30」の達成に向け、学び、相互啓発し、着実に推進しようをテーマに活動しています。 生物多様性条約第16 回締約国会議(COP16)も始まり、世界目標(30 by 30 目標:2030 年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する)の実現に向け具体策が検討され、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)についても賛同・開示する企業・機関が増えてきております。 そういった中、EU では森林破壊防止法(EUDR)が発効され、適用を受けることになります。そこで、EPOC 海外チームと共同でセミナーを企画し、最新の動向を確認するとともに、企業に求められる取り組みや具体的な事例について、3件ご講演いただきました。

開催日時 2024年12月17日(火)14:00~16:40
開催方式 会場対面(栄ガスビル 5階 栄ガスホール)、オンライン(Zoom)
参加者 計112名(会場:68名+オンライン:44名)

プログラム

講演Ⅰ 「生物多様性最新話題! COP16から読み解く企業と生物多様性の未来予想図」

 

【講師】
  公益財団法人日本自然保護協会 道家 哲平 氏


講演Ⅱ 「TNFDの背景と基本的考え方」

 

【講師】
  MS&ADインターリスク総研株式会社 寺崎 康介 氏


講演Ⅲ 「UCCグループのサステナビリティ活動

~ネイチャーポジティブとサステナブルなコーヒー調達~」

 

【講師】
  UCCジャパン株式会社 中村 知弘 氏


講演概要

(講演Ⅰ)

生物多様性の最新話題としてCOP16から読み解く企業と生物多様性の未来予想図と題し講演いただきました。

2024年10月に開催されたCOP16では、生物多様性世界枠組み(GBF)の実施に向けた重要な議題が議論され、「成果をはかる指標」「実施のための資金拡大」「電子化された遺伝子塩基配列情報(DSI)多国間メカニズムの構築」などテーマとして取り上げられました。DSIに関しては一定の合意が得られたものの、指標や資金拡大については合意に至らず、これを受けて特別COP(COP16-2)が2025年2月末にローマで開催されることが決定しました。一方、先住民地域共同体による自然保護の取り組みに対する認識と尊重支援については合意が得られ、いくつかの進展が見られました。
今回のCOP16では、前回のCOP15よりも企業や金融機関の参加も増え、これらの企業は単に情報を収集するだけでなく、政策提言を行い、ビジネスチャンスやパートナーシップを探すために積極的に企業が参加されていました。
今後、政府や企業がさらに積極的に参加し、社会の仕組みづくりや政策提言に関与していくことが重要で、単に情報を開示するだけでなく、実際に行動に移す際には、地域や流域、さらには海の景観とエンゲージメントを図る必要があり、このようなアプローチは、気候変動とは異なる新たな変化が求められます。



(講演Ⅱ)

「TNFDの背景と基本的考え方」と題して講演いただきました。

社会・経済は生物多様性、自然資本に支えられています。自然資本が減ると、生態系サービスも減り、社会・経済に悪影響を与えるという依存関係が、バリューチェーンの上流と下流において発生しています。
自然資本はこの数十年で0.4倍に減少し、世界経済の上でも重大な経済的なインパクトがあります。
昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組み(GBF)では、「ネイチャーポジティブ」の概念が取り入れられ、2050年までに自然と共生することを目指し、特にターゲット15では、生物多様性リスクの評価と監視が求められることとなりました。この対象には、自らの操業、サプライチェーンやバリューチェーン等が含まれているため、TNFDが重要な役割を果たすことになります。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は気候変動関連の情報開示が主流となっており、今後も進展する見込みですが、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は次のテーマとして自然資本と人的資本について今後2年間検討する方針であり、これが基準に取り入れられれば開示義務化に向けた動きが加速する可能性があります。
TNFD開示提言は『TCFD』と類似しており、「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」 「測定指標とターゲット」の4つの主要な要素で構成され14の開示推奨事項から構成されています。
LEAP(自然関連課題の評価のための任意のアプローチ)は、「自然との接点の発見」「依存とインパクトの診断」「リスクと機会の評価」「対応し報告するための準備」の4つのステップで構成され、企業活動が生物多様性に及ぼす影響やその依存関係を洗い出し、TNFD情報開示をサポートする手法です。
今後、企業が直面するリスクには、気候変動だけでなく自然関連のリスクも含まれ、これらのリスクを適切に認識し開示することは非常に重要であり、経営陣のリーダーシップのもとで取り組みが必要であるとともに、社内のリテラシーを向上させることも不可欠との説明がありました。


(講演Ⅲ)

UCCグループのサステナビリティ活動 ~ネイチャーポジティブとサステナブルなコーヒー調達~と題して講演いただきました。

「コーヒー2050年問題」では、コーヒーが気候変動に弱い作物で、現状のまま気候変動が進むと、2050年までにコーヒーの生産量が半減する可能性があり、この問題に対処するためには、森林破壊や生物多様性の損失しっかりと対応していかなければならず、また、約8割の農家が小規模農家であるため、小規模農家のサステナビリティを守ることも非常に重要となります。
UCCでは気候変動への対応として、2040年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言しており、再生可能エネルギーの導入を進めていますが、コーヒー製造の焙煎工程においては、再生可能エネルギーを活用してもCO2排出をゼロにすることが難しいという課題があることから、CO2を排出しない水素火炎に着目し、その活用に向けた取り組みを進めています。
ネイチャーポジティブに向けた取り組みとしては、森林や生物多様性に関するリスク評価を行い、優先的に対応すべき戦略国を特定、また、欧州EUDRへの対応として、森林破壊防止に向けた施策を展開するためのロードマップの検討、さらに、戦略的生産国を中心に各地域の課題を抽出し、生産性の向上、森林破壊の防止、自然資本の回復につながる具体的なアクションを検討しています。今後、森林破壊ゼロ宣言、コーヒーの生産性を高めるための取り組み、カーボンニュートラルを視野に入れた植林などの活用への取り組みを進めていきます。
サステナブルなコーヒー調達では、生物多様性を損なわないように農業を行っているか、強制労働が行われていないかのモニタリングや、技術指導や情報提供による農家の生計改善の支援などを進めています。
UCCでは、協働パートナーによる監査のもとで調達されたコーヒー豆に、「サステナブルなコーヒー調達」というロゴを付けて、消費者の皆様が安心して購入いただけるよう、使用されているコーヒー豆がサステナブルに配慮されていることを伝える取り組みを行っています。モスバーガー様もこの趣旨に賛同し、サステナブルなコーヒー調達のマークを付けた商品を販売されています。
今後も、このようなエンゲージメントに賛同してくださるパートナーを増やし、サステナブルな調達の重要性を広めていきたいと説明がありました。


道家 哲平氏 寺崎 康介氏 中村 知弘氏
講演Ⅰ 道家 哲平氏 講演Ⅱ 寺崎 康介氏 講演Ⅲ 中村 知弘氏