セミナー

2024年度 環境経営分科会
 第1回EPOC環境経営先進セミナー
 「カーボンニュートラルで企業価値を高めるヒント」


はじめに

 カーボンニュートラルをテーマに世界と国内の動向、企業価値向上に向けた課題、そして取り組み事例について講演を開催しました。

開催日時 2024年8月28日(水) 14:00~17:05
形式 リモート(台風のため会場での開催は中止)
参加者 計150名(見逃し配信含む)

プログラム

講演Ⅰ 「グローバルな脱炭素の動向」

 

【講師】
 公益財団法人 地球環境戦略研究機関/ビジネスタスクフォース プログラムディレクター
   (JCLP事務局長)松尾 雄介 氏


講演Ⅱ 「日本企業に求められる脱炭素関連情報開示と企業価値向上」

 

【講師】
 株式会社エスプールブルードットグリーン 営業本部長 榎本 貴仁 氏


講演Ⅲ 「住友化学におけるカーボンニュートラルの取り組みについて」

 

【講師】
 住友化学株式会社技術研究企画部長 木全 修一 氏


講演概要

(講演Ⅰ)

 脱炭素に関する世界の動向を政策面から各国の事例を含めたご紹介および日本企業の脱炭素に対するリスク管理についてご講演いただきました。


  1. 気候変動対策に関する世界の最新動向
     温暖化問題はすでに世界中で顕在化しており、待ったなしの状況です。温暖化を1.5℃以内に抑制するためには、カーボンバジェット(残された累積CO2排出量の猶予量)は330G㌧であり、このままのペースでは残り8年分と推定されています。排出抑制のためには、①再エネ普及拡大、②内燃機関新車販売中止、③先進国での石炭フェーズアウトと電力の脱炭素化が必要です。
     一方、企業の保有する化石エネルギーは金融的なリスクになり、それは自社だけでなくサプライチェーンでのリスクも把握する必要があり、そのためScope3開示が求められています。このように企業への取り組み要請は規模と速度が変化するので見極めが重要です。

  2. 企業への影響
     企業にとって、気候変動の影響が顕在化するのは市場や株価へのインパクトが現れた時ですが、それ以前に政策の変化などがあるので、これらの動向を見極めることが重要です。一方2023年の世界の平均気温は1.45℃上昇したとのことで、2050年に至る削減の経路も重要になってきました。IPCCの報告書では1.5℃目標達成のためには、2035年までに2013年比60%以上の削減が必要とのことです。温暖化対策の遅れや誤った対応は、国や企業にとって法的なリスクにもつながります。

  3. 日本の脱炭素化の注目ポイント
     日本では脱炭素の制度・市場が未成熟で、脱炭素ビジネスは国内では機会につながらず、海外に流れてしまう傾向があります。しかし、どこかの段階で一気に変化を迫られるのは必然です(自動車・鉄鋼などでは大きな変化の兆しあり)。そのようなリスクに対応するためには企業は受け身ではなく主体的に動く必要があり、JCLPのような脱炭素に対して危機感をもった企業集団の活動はその一例です。

講師の松尾氏
 

松尾 氏


(講演Ⅱ)

  1. 日本企業を取り巻く環境
     企業の気候変動への対応に対して、活動家の株主や大手顧客からの要請が活発になっており、加えて取り組みが不十分な企業に対する訴訟の動きもあります。また各国金融当局などからは気候変動への取り組みに関して、TCFDなどの基準に基づく情報開示要請があります。

  2. 情報開示による効果・メリット
     気候変動対応についての情報開示は、機関投資家からのエンゲージメントを受ける機会を増やし、取り組みが評価されればINDEXに組み込まれ株価上昇や低金利融資にもつながります。実際に伊藤忠商事では、開示の拡大がESG投資増加とリンクしているとのことです。

  3. どのように取り組むべきか
     気候変動の開示に関しては、TCFD、CDP、SBTiなど様々な国際イニシアチブがあり、それぞれが連携しています。中でもCDPへの回答で高評価を得ることが、関連するイニシアチブにも好影響を与えます。また現在のTCFDに基づく開示は、今後IFRS S2およびSSBJへ対応する必要があります。それらに共通した傾向としてサプライチェーン(Scope3)での開示が重要になっています。


講師の榎本 氏
  榎本 氏

(講演Ⅲ)

  1. カーボンニュートラル(CN)への方針
     カーボンニュートラル戦略審議会(経営会議メンバーで構成)にてグループ全体のCN活動を統括しており、コンセプトとしては、住友化学グループらしい取り組みを「責務」と「貢献」の両面から推進しています。「責務」はCO2排出量を2013年度比で2030年度は50%削減、2050年度にはゼロにすること、「貢献」は製品・技術による世の中での削減です。

  2. GHG削減の方策
     「責務」の方策は、自社のGHG主要排出源の自家発電の燃料転換、再エネ利用、バイオテクノロジーによる排水処理での排出削減などです。「貢献」の方策は廃プラなどのケミカルリサイクル・CCU・細菌によるDACなどの技術です。

  3. CFP算定
     化学メーカーでは製品の製造プロセスは他のセクター以上に複雑です。製品のカーボンフットプリント算定のために自社でCFP・TOMO®を開発し、汎用ソフトウェアとして日化協とも連携し、無償で提供しています。


以上