2019年度EPOC自然共生社会分科会セミナー
「企業と自然共生/"ノーネットロス"って何?」
概要
日時:2019年12月10日(火曜日)13時〜17時10分
場所:MAZAK ART PLAZA(マザックアートプラザ)4F
(名古屋市東区葵一丁目19番地30号)
主催:環境パートナーシップ・CLUB(EPOC)自然共生社会分科会
参加者数:76名
【セミナー開催の背景と内容・参加者の声】
「愛知目標」の最終年度である2020年を迎えるにあたり、「ポスト愛知目標」としての政策が注目される中、今回のセミナーでは企業における自然共生の取組みのヒントとなるよう、今後の持続可能な経済社会実現に必要な"地域循環共生圏"と"ノーネットロス"をテーマに基調講演とパネルディスカッションを企画しました。
最初の【基調講演1】では、第5次環境基本計画でも提唱されている「"地域循環共生圏"の創造から生まれる持続可能な循環共生型の社会・地域の意義」について、国の政策づくりを担う環境省よりご講演いただきました。次の【基調講演2】では、「生物多様性オフセットにより生態系への影響を相殺する"ノーネットロス"という概念と、実際に展開している海外の状況や日本の行政、企業の実態について、第一人者である専門家からご講演いただきました。さらに、【基調講演3】では、環境中期目標のひとつに「生物多様性ノーネットロス」をあげて活動する先進企業からご講演をいただきました。
最後は、全講演者によるパネルディスカッションを行い、会場からの質疑も交え、様々な視点でのご意見をうかがいました。
参加者からは、「それぞれがわかりやすい講演であり、3つの基調講演の内容がパネルディスカッションで解説されたので、生物多様性やノーネットロスについてよく理解できた」、「今後、ノーネットロスを目標に掲げる企業が増加していくとよい」といった感想をいただきました。
<プログラム>
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EPOC副幹事長
ブラザー工業株式会社 法務・環境・総務部
環境推進グループ 藤岡 昌也氏
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- 13時5分〜14時5分
- 【基調講演1】
「Transformative Change 〜地域循環共生圏の創造と生物多様性〜」
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【講師】
環境省 大臣官房 環境計画課 企画調査室 室長
自然環境局 自然環境計画課 課長補佐 岡野 隆宏氏
【講演概要】
我が国が抱える環境・経済・社会の課題は相互に密接に連関・複雑化していること、世界に目を転じると、2015年には「2030アジェンダ(SDGsを含む)」や「パリ協定」の採択など、国際的合意が立て続けになされ、世界が脱炭素社会に向けて大きく舵を切り、持続可能な社会づくりが国際的な潮流となっていること、「SDGs」や「IPBES:生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」では、この目標達成のために、経済・社会・政治・科学技術における横断的な社会変容(transformative change)を促進する、緊急かつ協調的な努力の必要性を強調していること等について、説明していただきました。
我が国の環境保全に関する政策である「第五次環境基本計画」では、国際・国内情勢に的確に対応した計画とするため、SDGsの考え方を活用し、目標達成のポイントとして、「環境・経済・社会の統合的向上の具体化」「地域資源を持続可能な形で最大限活用できる地域循環共生圏の創造」「幅広い関係者との連携」が掲げられていることも教えていただきました。
中でも、地域循環共生圏は、自然資本(生物多様性・生態系サービス)を活かした地方再生を地域主体で創り上げていくものであり、例えば農村部で作った余剰の再生可能エネルギーなど自然資本をエネルギー需要密度が高い都市に提供して収入を得ることで、多様な主体とのパートナーシップを作ることにより地域の社会・経済課題と環境課題の同時解決に繋がり、新しいビジネスチャンスとなり得ることを学びました。
参加者からも「日本の課題や世界的な動向、地域循環共生圏などのお話が全体にわかりやすかった」、「地域循環共生圏は理想的だが、実現するための難易度も非常に高く、息の長い取り組みが必要と感じた」などのコメントをいただきました。
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- 14時5分〜15時5分
- 【基調講演2】
「ノーネットロスの起源と動向」
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【講師】
東京都市大学 環境学部 環境創生学科 教授
環境アセスメント学会 常務理事 田中 章氏
【講演概要】
ノーネットロスの起源は、1958年米国で魚類野生生物調整法の改称・改正の中で希少生物に対する代償ミティゲーションが規定されたことから始まり、その後NEPA(国家環境政策法)の制定やHEP(Habitat Evaluation Procedure)の開発後、1981年の内務省魚類野生動物局によるミティゲーション政策で、希少種ハビタットに対する代償ミティゲーションの目標として初めてノーネットロスが表現されたことを米国の時代背景も交えて詳しく説明していただきました。
代償ミティゲーションは、生物多様性オフセットとも呼ばれ、最初に生態系の損失に対しては回避ミティゲーション、最小化ミティゲーションを施し、それでも残った生態系の損失に対して補償を行う仕組みであり、現状維持まで復元させることをノーネットロス、現状を超えるレベルまで対策することをネットゲインと呼び、米国にはさまざまな自然環境を復元・ストックして債権を売り出す会社(ミティゲーション・バンキング)が急増していることも教えていただきました。
また最近では、企業の環境に係わる長期目標・ビジョンにノーネットロスを掲げるケースが増えていますが、その多くは「事業活動により発生する負の環境影響を最小化すると同時に、生物多様性への貢献など生態系保護、あるいは再生活動により地球環境にプラスの影響をもたらすことで負荷を相殺する"ノーネットロス"にチャレンジする」もので、言葉の起源とは若干異なりますが、企業が事業活動による負荷と地球環境の再生を意識して目標設定に活用していることを学びました。
環境問題の本質は生態系の破壊であり、ヒトの生存や人間社会の維持のためには健全な生態系が不可欠であることを教えていただきました。
参加者からも「ノーネットロスという言葉の意味が理解できた」、「ノーネットロスが、どういうところ・形で使われているのかよく解った」などのコメントをいただきました。
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- 15時20分〜16時20分
- 【基調講演3】
「環境長期目標:生物多様性ノーネットロス(貢献>影響)」
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【講師】
株式会社ブリヂストン グローバル経営戦略・企画本部
サステナビリティ推進部 部長 稲継 明宏氏
【講演概要】
ブリヂストングループは、「(1)自然と共生する」「(2)資源を大切に使う」「(3)CO2を減らす」の3つのテーマの推進によって、持続可能な社会の構築をめざし、特に(1)自然と共生するでは、「ありたい姿の見える化」にチャレンジし、2050年以降の長期目標策定において、いち早く「生物多様性ノーネットロス」の考え方を取り入れていることを説明していただきました。
それは、ブリヂストングループが事業活動を行う上で、自然に「依存」している部分と、「影響」を及ぼしている部分について、リスク・機会の面からしっかり整理を行い、「影響」を最小化するだけでなく、「+αの貢献活動」によって、トータルで「ゼロ以上」をめざす(めざす姿は、影響<貢献)というものでした。
具体的には、影響の最小化に向けた取組みとして生産における取水量やVOCの削減及びグローバルサステナブル調達ポリシーの発行など、貢献の拡大に関する取り組みとしては天然ゴム生産性の向上や事業所周辺での水源保全活動、低燃費タイヤの開発と販売などが含まれていることを自社の活動事例から説明していただきました。
生物多様性の取組みを推進するために、経営層への生物多様性に関するリスクと機会の定期的な結果報告、定性的でも良いから全社的な方針・目標の設定、そして身近な活動への落とし込みを実施されているお話はとても参考になりました。
参加者からも「取組みを推進する際のポイントの説明がとても参考になった」、「社内の事例がとても解りやすかった」、「生物多様性に関わる定量指標化にチャレンジされていてすごいと思った」、「生物多様性の推進手法として「影響の低減」と「貢献の拡大」に区分して既存の活動の関連性をみせることで、周囲の理解や取組の促進につなげている点が参考になった」 などのコメントをいただきました。
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- 16時25分〜17時
- 【パネルディスカッション及び質疑応答】
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東京都市大学 環境学部 教授 田中 章氏にファシリテーターを務めていただき、講演者全員によるパネルディスカッションや質疑応答を行いました。
具体的な内容としては、「生物多様性保全とは自然環境保全であり自然生態系を守るために地域と共生せざるを得ない」、「外に目を向けると生物多様性の新しい価値が見つけられる可能性がある」、「生物多様性保全活動に対する評価や手法は上手に使わなければいけない」、「企業における自然共生活動は社会貢献やCSRなどの地域貢献活動として進めてはどうか」など、生物多様性活動の取組みや課題に対して貴重なご意見やアドバイスをいただきました。
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自然共生社会分科会からのお願いとお知らせ
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