セミナー

EPOC自然共生社会分科会セミナー2017
「身近に迫る生態リスク 戦略的ESG経営のツボとは」


概要

日時:2017年11月29日(水曜日) 13時10分〜17時20分
会場:MAZAK ART PLAZA(マザックアートプラザ)(名古屋市東区葵一丁目19番地30号)
主催:環境パートナーシップ・CLUB(EPOC)自然共生社会分科会
参加者数:100名


講演の様子

【セミナー開催の背景と内容・参加者の声】
COP10名古屋開催において「愛知目標」の2050年までの長期目標や、2020年までの行動目標が掲げられ、企業やそのサプライチェーンに対しても生物多様性保全のための自主的な取り組みが求められています。
本セミナーでは、第一部で今年日本への侵入が話題となったヒアリ等「侵略的外来生物への対応」を例に企業のリスク対策を学ぶと同時に、第二部では、環境や社会への取り組みによって企業価値を高める「ESG経営」の戦略的な考え方について理解を深めました。さらに第三部では、「紙」を自社のリスク要因と定めて持続可能な調達活動を担われている富士ゼロックス様の取り組みを紹介いただきました。後半の講師への質疑応答では、参加者より企業が保全活動に関わることへの率直な思いや、社内展開していくうえで障壁となっている課題について様々な意見が寄せられ闊達な意見交換の場となりました。
参加者からは、「トレンドに沿った内容の濃いセミナーで良かった」「近い未来を想像しながら、企業としてやるべき方向性が見えてきた」など、次の行動につながる前向きなコメントを多数いただきました。
また、今後のEPOC会員企業における生物多様性保全活動、そしてESG経営への取り組みが期待されるなどの好評をいただきました。


<プログラム>

    • 13時10分〜13時15分
    • 【主催者 開会挨拶】

    EPOC副幹事長
    ブラザー工業株式会社 法務・環境・総務部環境推進グループ
    浅井 秀已 氏


    浅井 氏よりご挨拶

    • 13時15分〜14時15分
    • 【基調講演1】
      「侵略的外来生物のリスクと生物多様性保全に係る企業活動」

    【講師】
    国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 室長
    五箇 公一 氏


    五箇 公一 氏

    【講演概要】
    生物多様性は「エコではなく人間の・・エゴである」という本質的な考えを再確認し、外来種の登場による日本文化の喪失、グローバル化に伴う被害状況やその影響の速さなど、各地で被害をもたらしている様々な種を例にその最新情報を紹介いただきました。
    今年話題となったヒアリの出現による経済的損失にも触れ、リスク回避のために国立環境研究所で行われている世界初の防除手法や、起こりうるリスクに対し、どう準備し、どう対応するか、その効率的な改善手法等を学びました。また、人間が「生物多様性」に向き合ううえでの、五箇先生の柔らかい考え方にも感銘しました。

    • 14時15分〜15時15分
    • 【基調講演2】
      「ESG経営に係る企業の生物多様性保全活動」

    【講師】
    IIHOE 人と組織と地球のための国際研究所 代表者 
    川北 秀人 氏


    川北 秀人 氏

    【講演概要】
    人口減と高齢化がさらに進む社会で企業はどう成長するのか?という問いかけから始まり、2020年以降の未来を見据え、今、企業が考えなければならないテーマとして、SDGsを基本としたESG経営の重要性を熱く説明いただきました。2030年代までの人口推移予測などを活用し、その頃に起こりうる社会課題にも触れながら、新しいビジネスチャンスを模索していく夢のある時間となりました。
    同時に、投資家の関心事を軸に、ESG経営への取り組みを「公開」していくことの重要性を再確認することができました。生物、さらに人間の多様性(働き方)についても考える場となりました。

    • 15時30分〜16時30分
    • 【基調講演3】
      「富士ゼロックスにおける生物多様性保全活動について」

    【講師】
    富士ゼロックス株式会社 総務部 環境経営グループ 環境経営推進チーム長
    宮本 育昌 氏


    宮本 育昌 氏

    【講演概要】
    年々、各国で厳しくなっている環境規制やSDGsに込められた社会課題に対し、企業が考えるべきリスクは多様になってきています。今回は、生物多様性への配慮事例として「紙」を軸に持続可能な調達を推進している富士ゼロックス様より、取り組みの契機や具体的な事例・エピソードを交えて紹介いただきました。
    そして、回収した廃製品の中から部品、材料を徹底的に再使用する循環型システムの構築をグローバルに展開することで天然資源の採掘、利用を削減して生態系への影響を軽減する本業における取り組みなど、法律レベルを超えた活動を行わなければ今や全てリスクになりうる、という強い口調のもと、社会課題に対し真摯に向き合っておられる姿が印象的でした。
    また、事業所単位の生物多様性保全として、地域ニーズに合わせて推進していく大切さを、鈴鹿事業所の取り組みを例に紹介いただきました。

    • 16時30分〜17時20分
    • 講師とのディスカッション・質疑応答

    【ファシリテーター】川北 秀人 氏

    【回答者】五箇 公一 氏、宮本 育昌 氏、川北 秀人 氏


    参加者からの質問に答える講師の皆さん


    <参加者から寄せられた質問>

    Q 企業が行う生物多様性保全の取り組みの一つとして地域と一緒にビオトープを作っていますが、果たしてそれが生物多様性保全なのか、自己満足で終わらないか疑問です。どのように考えたらよいか教えてください。

    A(五箇氏)
    ・ナチュラルな手付かずの自然が生物多様性の本質と思われがちであるが、実際は日本列島などの場合、人間がいなければ極相林に覆われて暗い森の国となり、多様性と生態系機能はむしろスローモーになる。人間にとって持続的に生態系サービスを享受できる自然が生物多様性であり、そのための手入れや管理が必要。
    ・人が考えたのが里山再生であり、ビオトープを作ると小動物が増え生態系が高まるという論理である。自然に手を入れることで、人間が生き残るための生物多様性の方策とも言える。
    ・地域住民が求める自然が大事であり、企業側のエゴで行うのであるなら議論の余地がある。

    A(宮本氏)
    ・地域との合意形成が大事である。
    ・地域で創業し、認めて貰うためには地域に対して何ができるかを考え、地域住民の声を聞くこと、子供達の環境教育のサポートすることが重要である。
    ・企業がその土地で未来永劫存続するためには、子供達への環境教育を通してファンを作り、将来的には、その子達が入社して一緒に働いている様な形が出来たらベストと考えている。


    Q 生物多様性の重要性を理解し取り組んでいるが、何をどこまで行なえば良いのか、どのようにレベルアップすれば良いのか?ヒントや経済的評価のツールがあれば教えてください。

    A(宮本氏)
    ・自然の価値評価としては自然資本会計などあるが、計算方法がまだ標準化されていない。
    ・自然資本会計は、主に企業の事業活動における負の環境影響を評価している。FSC認証紙など、生物多様性への配慮をプラス評価ができないか、企業集団などで議論を行っている。
    ・別の指標としては、ソーシャルインパクトファクター(社会的インパクト効果)などがある。
    ・ISO14001:2015では生物多様性が組み込まれているので、それを活用して指標を作ることも可能である。(マネジメントレビューが毎年あるので、レベルアップにつながる)

    A(五箇氏)
    ・地域毎に指標が違い、人の価値観も多様で、一元的な管理は生物多様性には向いていない。また、危険である。
    ・一番大事なのはローカリティであり、地域住民が意思決定の場を作り、ゴールは自分たちで作ることが重要である。

    A(川北氏)
    ・生物多様性ガイドラインは枠組みを説明しているだけ、具体的な目標はそれぞれが決める。
    ・単純化・簡潔化の志向が強い日本人にとって「多様性」はマネジメントし難く、それを活かす経営に向いていない。そのため、目標をシンプルに絞り込みつつ、多様性を定量的に把握できるかが多様性管理の攻略法である。


    Q 企業が生物多様性保全活動を推進するにあたり、企業の経理部と総務部の理解を得る方法を教えて下さい。

    A(宮本氏)
    ・未来の投資に対する投資は難しいのが実情。
    ・環境経営は有益な側面を持つ活動でありながら、なかなか理解して貰えない。原因は、投資回収が長い、ビジネスへの提供価値が間接的、リスクの顕在化が回避されている、といった側面による。
    ・生物多様性を保全しない場合の潜在的リスクの明確化は難しいが、一歩一歩でもそれを明らかにして進むことが重要だと言える。

    A(川北氏)
    ・機会とリスクはどちらが経営層に理解してもらいやすいかと考えるとリスクの方である。
    ・生物資源により得られた利益の適正配分(ABS)や、水の適正活用などにおいても、地域住民との共生に配慮・対応できていないと非難を避けられない。生物多様性のリスクは自分たちが与える直接・間接の影響をどう把握していくかである。
    ・自動車メーカーで生物多様性リスクが高い側面はどこか?と考えた時、製造から見ると拠点や原材料だけを見てしまうが、バリューチェーン全体を見ると面積が一番大きい販売店の駐車場だろう。外来種の花を植えたり、種を配布したりすると大変な事になってしまう。
    ・EMSのリスク管理で、環境影響を面積、接点、バリューチェーンなどで見ることも大切。グローバルでは、グループ会社や販売拠点はリスクが高く、その管理が重要である。特定のもの・ことを指標にするより、総合的なリスク評価が重要。


    Q 認証紙を始めとする生物多様性保全を進めていくうえで、CSR調達について教えて下さい。

    A(宮本氏)
    ・紙のCSR調達においては、認証がすべてではなく、違法伐採に関与していないかどうかが重要。それを確認する為に取引先の調査・監査を行っている。
    ・コストをかけて認証紙を調達すること以外に、紙の使用量・調達量を減らすことも生物多様性への配慮となる。調達量が減れば、その調達コスト・廃棄コストが減る。それら両面を駆使し、適切に管理された森林から作られた紙の流通を進めることで生物多様性への配慮を拡大していきたい。
    ・現状、コストは認証紙の方が少し高い。CSR調達により生産材など改善に協力して歩留まりを上げコストを下げていきたい。結果、この取り組みが取引先との共存共営につながる。


    <総括>

    A(五箇氏)
    ・企業で生物多様性保全をすることは至近的に得にはならない。
    ・防御するだけではお金の無駄になってしまうが、人の価値観で保全がもたらす利益が違ってくる。
    ・生物多様性をどのように受け止めるか。人間の物事には多様性が大事であり、中立公平な目で生物多様性を見ないといけない。

    A(宮本氏)
    ・企業が地域の生物多様性保全に貢献できることとして、その資産価値を見える化し、地域と共有し、その維持について議論を重ねるというのがある。
    ・海外企業は、生物多様性保全をビジネスの機会として訴求している。
    ・例えば、国際会議の中でプレゼンをして実績を残すことでPRし、発言力を高めている。
    ・他にも、マイクロプラスチックなどの海のゴミは陸上からの排出が殆どであるが、それが“自社の製品だったらどうする”ということを問われる時期がいつかくる。
    ・生物多様性に関する課題に対し対策を行い企業価値を高めることがESGの評価に繋がっていく。そして、サプライチェーンをどこまで対応するかを考えていく必要がある。

    A(川北氏)
    ・機会の例として「積水ハウスの5本の木」がある。5本の木を植えた事で顧客の資産価値が下がらず、生物多様性を配慮した家づくりを提案し、顧客の長期資産を守っている。顧客のアセットマネジメントの観点から生物多様性を使いNPOと組んで行っている。
    ・ヨーロッパでは当たり前の様に、大規模に開発する時こそ、生態系を擬似的に作り直す考え方が入っている。人間の営みの中に生物多様性をどう位置づけていくかに価値がある。
    ・現在はサプライチェーンの中でどう守っていくかであるが、事業上で接する人、顧客まで踏み込んでいる人、クライアントの中には暮らしの中でも生物多様性が豊かになり、価値評価が上がっていくかもしれない。