セミナー

2017年度水素セミナー 低炭素水素社会に向けた取組み

日 時: 2017年4月25日(火曜)13時30分〜16時45分
場 所:マザックアートプラザ4階 会議室 (愛知県名古屋市東区葵1-19-30)
目 的:水素研究の最新動向に関する講演と、具体的な水素活用事例の紹介を通じて、参加企業の「低炭素水素社会」構築に向けた中長期取り組みを考える契機とする。
主題・講師:【講演】
「低炭素水素社会に向けて」
九州大学 副学長・水素エネルギー国際研究センター長 佐々木一成氏

【事例紹介1】
「清流パワーエナジーにおける水素社会構築に向けた取組 〜岐阜県八百津町における再エネ水素による水素社会の実証〜」
株式会社清流パワーエナジー 取締役 向後高明氏

【事例紹介2】
「豊田通商の低炭素水素エネルギーの取組」
豊田通商株式会社 新規事業開発部
低炭素社会推進グループリーダー 鈴木来晃氏

【事例紹介3】
「あいち低炭素水素サプライチェーンについて」
愛知県 環境部 地球温暖化対策監 小野俊之氏
参加者:100名
所 感:これから世界的にキーテクノロジーとなっていく水素エネルギーおよび燃料電池について、最新の研究動向と、地域や企業の具体的な取り組み事例を知ることができた。水素エネルギーや燃料電池の持つ大きなポテンシャルと解決すべき課題、また愛知県がこれらの技術をけん引していく地域であることを認識した。

  • セミナーでは、水素研究の最新動向と具体的な水素活用事例から、低炭素水素社会構築に向けた企業の中長期取り組みを考え、EPOCの2020年ビジョンにも記載している「低炭素社会構築」に向け、EPOC会員に何ができるのか、情報やヒントを得ることを目的とした。

    •  

    (1)講演「低炭素水素社会に向けて」

    講師:九州大学 副学長・水素エネルギー国際研究センター長 佐々木一成氏

    佐々木一成氏

    2017年1月の政府施政方針演説において安倍総理は「水素エネルギーはエネルギー安全保障と温暖化対策の切り札である」と打ち出している。その中には、燃料電池自動車や水素ステーションについて、また水素をエネルギーキャリアとして利用していくことが明記されている。

    水素の活用はグローバルで取り組んでいく課題である。同じく2017年1月のダボス会議おいて、エネルギー、運輸、製造業の世界的企業13社による水素協議会(Hydrogen Council)が発足するなど、水素の活用を進めていくことは世界の産業界の総意のひとつとして認識されているといえる。その中でも、日本は世界に先駆けて水素社会を実現させるべく、2017年4月「再生エネルギー・水素等関係閣僚会議」を新たに立ち上げるなど、国を挙げて取り組んでいるところである。中長期的視点で考えれば、水素および燃料電池は確実にキーテクノロジーとなっていく。我が国の貿易収支の観点からみると、日本の貿易黒字を生んでいるのは輸送用機器すなわち自動車である。一方、何に対して一番対価を支払っているかといえば鉱物性燃料、エネルギー原料である。鉱物性燃料の輸入額は年間20兆円にも及ぶ。これを数パーセントでも減らすことができれば、大きなインパクトとなるだろう。

    産業革命以来、人類は化学燃料を燃焼させ熱を作り、運動に変えて電気を作るという「熱エネルギー変換」によりエネルギーを生み出してきた。これに対して、今我々が取り組んでいる燃料電池は、化学エネルギーから直接電気をつくる「電気化学エネルギー変換」である。熱エネルギー変換に比べ無駄がなく、使い勝手が良いものである。電気化学エネルギー変換の原理そのものは古くから知られていたものの、これまでは宇宙開発等に利用分野が限られていた。しかし、家庭用発電システムであるエネファームや燃料電池自動車が開発・展開され、電気化学エネルギー変換で効率よく電気を得るシステムが社会に普及しつつある。

    家庭用、自動車用に続く燃料電池の三つめの柱が産業用の大型燃料電池だと考えている。産業用では、特に高効率で、すなわち経済的に成り立つものが求められる。燃料電池にはいくつかタイプがある。家庭用コジェネレーションや自動車用に用いられるのは、固体高分子形燃料電池(PEFC)で、プラスチックでできているため低い温度で起動する、起動性に優れた燃料電池である。一方、工場等で用いる場合、徐々に温度を上げていけばよいことから、起動性よりも効率の良いものが求められる。よってセラミックでできた固体酸化物形燃料電池(SOFC)が適しており、実用化に向けた実証も進んでいる。九州大学でも、産業界と連携しSOFCとマイクロガスタービンの複合発電システムを設置しており、発電効率55%を達成、1万時間の運転実証に成功した。昨年12月に規制緩和が実現し、現在は三菱日立パワーシステムズの長崎拠点より遠隔監視している。この規制緩和により実用化に大きく近づいたと感じている。

    その他、発電に関しては、次世代火力発電の中核技術としてSOFCが期待されている。燃料電池を火力発電と組み合わせることで高効率化し、CO2削減を実現するものである。また、「再エネ水素」による電力供給もある。太陽光発電のますますの普及により、昼間電気があまり、夜間に不足するという事態が生じると考えられる。そこで、昼間、電力に余裕があるときに再エネを水素に変換し、夜間太陽光発電ができない時間帯に使用するというシステムが構想されている。

    水素や燃料電池は様々な付加価値が生み出せると考える。まず電気を効率よく作れるという大きな メリットがある。また、燃料電池自動車は排気ガスの出ないゼロエミッションモビリティ社会の実現のため、電気自動車とともに双璧となる技術である。燃料電池自動車が普及すれば日本の基幹産業であり日々の生活の移動の要である自動車が、石油という輸入資源に依存しなくなる。そして、再エネ電力を水素で貯蔵することで、再エネ由来の電力の受け入れ余地が増加する。水素への変換はまだまだコストが高いが、これを実現していくことが我々に課せられた使命であると考えている。

    燃料電池や水素の活用を進めていくという方向性は、国の政策にも明確に位置づけられている。エネルギー白書2016年版では、「エネルギー革新戦略」の三本柱の一つとして省エネ・再エネとともに新たなエネルギーシステムを作っていくということが明記されている。その中では、燃料電池自動車と水素ステーションについて普及目標も設定されている。燃料電池、水素活用ともにまだまだ課題が多いが、この技術をしっかり育てていく必要がある。

    将来あるべき姿として、より効率のよいエネルギーシステム、ゼロエミッションモビリティ、脱炭素・水素社会の実現が挙げられるが、それに向けて大学と産業界との連携を行っていく必要がある。低炭素社会の実現に向けて、究極のエネルギーシステムである水素エネルギーの芽を育て、産業界に還元するのが大学の使命だと考え、九州大学では水素エネルギー研究の拠点「水素エネルギー国際研究センター」を設置した。世界最大規模の研究拠点である。大学は教育機関としての位置づけが一般的であるが、実は社会が大学に求めるものは多岐にわたっているということを現場で感じている。最先端の研究を進め、さらに産業界と協働し研究成果が社会に普及しなくては我々の努力も報われない。その基盤として、本センターがある。

    その他にも、広大なキャンパスを有するという特長を生かし、キャンパス内で様々な実証実験を行っている。また、産業界との連携を重視する中で、企業が自由に、気軽に出入りできる拠点を大学内に作りたいという思いから、「次世代燃料電池産学連携研究センター(NEXT-FC)」を設置している。大学内に企業が自社ラボを持つことができる施設である。さらに、より一層企業と一体となった取り組みができないかということで、1年ほど前から「NEXT-FC産学共創プラットフォーム」を立ち上げ、学生=将来産業界を担う人材を企業と一緒に育てる試みを行っている。その他、九州大学では、伊都キャンパスに水素ステーションや再エネ水素製造等の設備を設置し2030年ごろの「水素社会」を具現化したり、発電効率80%LHVを超える超高効率の研究に取り組んだり、遅れている分野である再エネ水素用の水電解触媒の開発に取り組んだり、水素社会の実現に向けて経済や法制度を含んだ文理融合でのシステム研究に取り組んだりと、様々な挑戦を行っている。

    低炭素・水素社会への移行に関して、二段階のプロセスが想定される。まず、燃料電池は高効率であることから、これを設置普及することでCO2を半分程度に削減することができると考えている(水素利用社会)。その後の段階として、CO2排出ゼロの社会を構築するため、純水素もしくはCO2フリーで作った水素あるいはメタンを使っていく(純水素社会)。燃料電池ができることは多岐にわたるが、現在実用化しているのは「家庭用」「自動車用」のみである。しかし、今年度「業務用」「産業用」の市販が始まり、「発電用」はおおよそ10年後の実用化を目指している。船やバス、航空機といった様々な移動体で使用しようという動きも始まっている。燃料電池の市場については、燃料電池車が大きなウエイトを占めるが、産業用・業務用・家庭用・ポータブル用もそこそこの規模の市場になる。業種を超えて連携し、日本全体で技術を育て、低価格化していく必要がある。

    燃料電池・水素エネルギーとは単なる一つの技術ではなく、社会の在り方やエネルギービジネスの展望、エネルギーの使い方について新しい考え方を提供するものである。今までできなかったことが実 現できる技術である。したがって、技術そのものを進めるだけでなく、それをどのように使っていったら社会に付加価値を与えられるかを、様々な分野の人々とディスカッションしながら考えていきたいと思っている。例えば「石油に依存しない社会」が実現すれば、自動車業界に大きなインパクトを与えるのみならず、地方創生や我が国のエネルギーの自立といったビジョンも描くことができる。多くの方々と議論しながら、この技術が社会に普及し、役立つようにしていきたい。

    •  

    (2)事例紹介1 「清流パワーエナジーにおける水素社会構築に向けた取組
    〜岐阜県八百津町における再エネ水素による水素社会の実証〜」

    講師:株式会社清流パワーエナジー 取締役 向後高明氏

    向後高明氏

    株式会社清流パワーエナジーは、2015年11月、大日本コンサルタント株式会社および株式会社トオヤマを株主として設立した。「再生エネルギーを通じて地域経済の発展と持続可能な地域社会を実現させ、社会に貢献する」を経営理念とし、中山間地の小さな町を中心に事業を展開していきたいと考えている。岐阜県は山が多く、小さな町が点在しており、そういった地域でいかに再生可能エネルギーを普及していくかをポイントにしている。

    取り組みは、大日本コンサルタント株式会社、株式会社トオヤマ、大和リース株式会社の三社が2014年4月、GIII(ぎふ長良川再生可能エネルギー協議会)を立ち上げた時から始まっている。GIIIは現在、地元岐阜の企業を加え計6社で活動している。立ち上げの後、岐阜県知事の欧州視察への同行、水素ステーション補助金の採択決定を受け、2015年11月に株式会社清流パワーエナジーの設立に至った。2016年には防災型燃料電池の開発開始したことを機に、岐阜県、八百津町、岐阜大学、森松工業株式会社、ブラザー工業株式会社、清流パワーエナジーの6社で産官学連携の協定を結び、「中山間地で水素をどのように普及させていくか」という視点で活動を行っている。

    「八百津プロジェクト」では、八百津町に再生可能エネルギーを導入し、そこからさらに水素の製造、貯蔵、運搬そしてその利用を図っていくものである。産官学連携で進めており、「官」である岐阜県は企業間のマッチング、技術支援、普及啓発を中心に支援している。また八百津町は実証フィールドの提供、再エネの導入、町民への普及啓発を担っている。「学」である岐阜大学は、知識・技術の提供、共 同研究の実施等を担っている。「産」である清流パワーエナジー、ブラザー工業株式会社、森松工業株式会社、さらに三興グループ、GIII企業は、連携しながら研究開発やビジネスモデルの構築、新製品の開発・製造を、八百津で実施していく。八百津町では、協定締結後、「再生可能エネルギービジョン」を策定している。その中では、「産」のビジョンとして新産業の創出、「官」では公共施設を災害時拠点として活用するために燃料電池等を導入していく、「民」では町民の間に燃料電池や再エネ設備を導入していただく、ということを盛り込んでいる。

    水素プロジェクトでは、八百津町で水素を作り、そして使うまでを目指しており、製造では、水電解とアンモニアから水素を製造するという二つの方法で進めていく。利活用については、水素ステーションの導入、防災型燃料電池の開発、燃料電池アシスト自転車の開発等を行っていく。

    水電解による水素製造については、久田見地区での導入を検討しているが、現段階ではどのメーカーの方法が良いのか、比較している段階である。今年度中には設備を1台導入する予定で、製造した水素は水素ステーションや役場に設置した防災用燃料電池に運び、利用することを考えている。アンモニア方式については、岐阜大学と澤藤電機株式会社が共同開発したアンモニアから水素を取り出す技術の実証を同じく久田見地区で行っていく。プロジェクトの内容としては、工場やごみ処理施設から生じるNOxを硝酸に変換しアンモニアを作る(岐阜大学、森松工業株式会社)、アンモニアから水素を作る(澤藤電機株式会社)、それらのシステム、装置を地域に普及させる(清流パワーエナジー)という三つがある。

    水素の運搬については三興産商株式会社が担っており、移動式水素ステーションを清流パワーエナジーが1台保持している。現在は岐阜県内の岐南町、土岐市の水素ステーションで事業を展開しており、今後、八百津町、大垣市、将来的には高山方面でも立ち上げていきたい。岐阜県が、5つある県域に2か所ずつ水素ステーションを設置するという方針を持っており、高山まで含めれば清流パワーエナジーは5県域すべてに1か所ずつステーションを置くことになる。現状稼働している水素ステーションでは、1日平均2台の利用がある。一回当たりの平均充てん量は3kgほどである。現在、岐阜県内では燃料電池自動車が35台登録されている。今後ますます増加していくと、移動式ではキャパシティオーバーになる可能性もある。

    燃料電池については、森松工業株式会社とブラザー工業株式会社の協力を得て、防災機能付きの純水素型燃料電池システム(製品名:G-FORCE)を八百津町に導入した。通常時も非常時も電気・熱・水が供給できるシステムであることをコンセプトとした。通常時は商用電力と太陽光、蓄電池から電気を、熱はエコキュートから、水は水道から供給する。非常時は燃料電池と太陽光発電が発電し、蓄電池を通して負荷設備に電気を、熱は燃料電池からの排熱をエコキュートに送り効率的に熱を供給している。水は貯水機能付給水管(森松工業株式会社)から供給される。

    燃料電池アシスト自転車については、町民からの意見を受け、観光客向けを想定し岐阜大学と共同で開発している。再来年には観光客に使っていただけるようにしたい。その他、地域への普及という観点から、月に1度以上、岐阜県内でシンポジウムや講習会の開催を実施している。また、今年5月には愛知県蒲郡市で行われる大規模野外フェス「森、道、市場」において、再エネ水素により電力を一部設備への供給を予定している。

    今後の展開として、まず水電解による水素製造設備を今年度1台導入し、実証を開始する。アンモニアから水素を製造するプロジェクトについては、2、3年以内に製品の開発を行い、2020年の導入、実証開始を目指す。水素ステーション事業はこのまま運営を続け、燃料電池は新たに2機,3機と導入を進めていきたい。アシスト自転車についても2018年には八百津町内で実証を行っていく予定であり、「中山間モデルの見本市」を目指し、2020年までには八百津プロジェクトとして形に見える成果を出せるよう、取り組んでいく。

    •  

    (3)事例紹介2 「豊田通商の低炭素水素エネルギーの取組」

    講師:豊田通商株式会社 新規事業開発部  低炭素社会推進グループリーダー 鈴木来晃氏

    鈴木来晃氏

    世界人口の増加、新興国の経済規模の拡大により、CO2の濃度は確実に増加していく。昨年度パリ協定が発効し、日本政府も2030年度にGHG排出量を2013年度比で26%削減すると宣言した。2030年には電力供給における再エネの比率を22〜24%まで引き上げていかなくてはならない。

    日本が抱える課題として、まず東日本大震災以降の原発の停止により、化石燃料の輸入額が増加していることがある。エネルギーの自給率は10%を切っており、危機的な状況といえる。同時に、化石燃料を使用することでCO2の排出も増加している。また、地方の人口流出、過疎化も大きな問題である。このような日本の抱える課題を、再エネや水素エネルギーの推進により解決できるのではないか。例えば、北海道は風況の良い地域であり、再エネ発電量が送電能力を上回っている。余剰電力で水素を製造するということが、一つのソリューションになるのではないか。水素として活用するという選択肢があることで、さらに再エネ発電量を増やすことができる。

    豊田通商では、4年前から水素市場への参入の検討を始めた。後発の参入であることから、他社との差別化を図るため、またトヨタ自動車がCO2を排出しない究極のエコカーMIRAIを開発されたことから、CO2フリー水素にこだわり事業を進めて水素ステーションで供給するという展開である。さらには、「トヨタ環境チャレンジ2050」に工場でのCO2ゼロがあるので、工場でのCO2フリーの利活用モデル構築に取り組んでいきたいと考えている。

    水素ステーション事業について、ステーションは定置式および移動式を運営している。定置式は愛知県内に2カ所、移動式は東京都内に2カ所、愛知県内に3カ所の計7カ所を運営している。総合商社としては初めて水素ステーション事業に参入した。現在は化石燃料由来の水素を供給しているが、再エネ由来の水素の方がCO2排出量が大幅に少ないことがわかっているので、再エネ由来の水素を展開していく必要があると認識している。

    水素製造事業では、3つのプロジェクトを実証している。一つが下水汚泥由来の水素製造、二つめが風力発電由来電力による水電解による水素製造、三つめが太陽光発電由来電力による水電解による水素製造である。

    下水汚泥由来のバイオガス改質水素製造は福岡市で実施した。世界初の下水処理場の中にある水素ステーションであり、世界中から見学者が訪れた。製造方法はシンプルで、下水汚泥から発生するバイオガスから水素を取り、圧縮してMIRAIに供給するというもの。2015年3月時点で実証期間は終了しており、現在は豊田通商、三菱化工機、福岡市の三者で共同研究体を維持している。下水汚泥処理から生じるバイオガスには1億3000m3の水素が含まれるにもかかわらず未利用になっており、これを有効活用できればという思いで始めた。本システムのメリットは、カーボンニュートラルであること、原料が安定的に入手できること、集荷コストが低く抑えられるということ、エネルギーの地産地消が可能であることがあげられる。デメリットは、コストが高いということである。

    風力発電からの水素製造は、NEDOの委託を受け、北海道苫前町にて実施している。苫前町は非常に風況がよく風力発電に適しているものの、送電容量の都合上、発電能力を余しているという状況があった。これを水素製造をすることで解決できるのではと考えた。苫前町の風力発電の電力の供給をうけ、水電解で水素製造を行い、有機ハイドライドで貯蔵・輸送し、町営の温浴施設で混焼ボイラーで水素の利活用をするサプライチェーンの実証を予定している。ビジネスモデルとしては、2019年ごろから風力発電のFIT期限が切れるので、それを利用することを前提条件としている。FITが切れて売電価格が安くなってしまうところを、売電と水素製造を組み合わせることでビジネスとしていけないかと考えている。売電と水素製造をどういった比率で行うかについて、シミュレーションでは、売電価格が10円/kWhであれば、売電が6割、水素製造が4割が適当ではないかという結果になった。

    また、FIT切れを待たずに今何ができるかについても検討している。グループ会社のユーラスエナジーが稚内で600MWの風力発電を検討しているが、実は300MW分しか北海道電力の系統に接続できない。その余剰分を水素製造に充てる。再エネ電力から水素製造を検討する場合、送電容量上余ってしまう余剰電力を充てることが多いが、どれだけの電力が余剰になるのか掴みづらく、事業化が困難であるという面がある。そのため、稚内のプロジェクトでは、あらかじめ十分に余剰電力ができるような発電容量を設定した。そうすることで、比較的安価で安定的に水素を製造できるのではないかと考えた。試算したところ、水素製造に使用する電力を0円としても製造コストが56円/Nm3となった。水電解装置の稼働率を上げていかなければ、コスト削減は難しい。一方、NEDOのロードマップでは、水電解装置のコスト削減を目標にしており、その目標値を当てはめれば、輸送費等含まない製造コストで22円/Nm3という結果となり、そう遠くない将来、実現できると考えている。また、北海道では燃料電池自動車もまだ普及しておらず、まだまだ水素の需要が少ないため、利活用についても検討する必要がある。

    また、太陽光発電からの水素製造を福岡で実証している。九州は太陽光発電が盛んな地域であるが、水素製造を組み込むことで、電力の受給のバランスがとれないかと考えた。トヨタ自動車九州で、工場内の太陽光発電電力により水電解から水素を製造、工場内のフォークリフトに供給した。

    以上のように様々に検討を行っているが、再エネ水素の事業化はまだまだ厳しいといえる。技術開発とそれによるコスト削減が必須である。製造についてはコストダウンできるポテンシャルがあると感じているが、輸送についてはイノベーションが必要であると認識している。また、現在「CO2フリー水素」の定義がない状態であるので、早急に定義付け、化石燃料由来水素との差別化を図らなくては取り組む事業者が出てこないであろう。これらを踏まえ、中長期的な政策支援が必要だと考えている。

    •  

    (4)事例紹介3 「あいち低炭素水素サプライチェーンについて」

    講師:愛知県環境部 地球温暖化対策監 小野俊之氏

    小野俊之氏

    昨年度より愛知県が進めている「あいち低炭素水素サプライチェーン」についてご説明する。

    水素は利用時にCO2を排出しないため、省エネ、エネルギーセキュリティー、環境負荷低減、産業振興等、様々な面で意義があると言われているが、私たちとしてはこのうち環境負荷低減効果に注目しており、特に製造時にCO2排出の少ない、いわゆる低炭素の水素の利活用が進めば地球温暖化対策に大いに役立つと考え、取り組みを始めた。現在流通している水素のほとんどは製造時にCO2を排出しており、化石燃料からの改質であれば1Nm3の水素を製造するのに約1kgのCO2を排出する計算になる。それでも燃料電池自動車はガソリン車の半分程度のCO2排出であるので、県としても導入を推奨しているが、今後本格的な低炭素社会の実現に向けては、製造時にもCO2排出の少ない水素の利活用を進めていきたいと考えている。

    国は水素の利活用のロードマップにおいて三つのフェーズを示している。フェーズ1は水素利用の飛躍的拡大、フェーズ2は水素発電の本格導入と大規模な水素製造システムの構築、フェーズ3は、2040年を想定しているが、トータルでのCO2フリー水素の供給システムの確立というものである。現在、このロードマップに基づいて各地で実証事業が行われている。本県では、2040年ごろのCO2フリー水素利用の本格化に先立って、愛知県の持つポテンシャルを生かし、現段階から低炭素水素の製造、利用拡大を図っていきたい。

    本県の持つポテンシャルとして、一つめに再エネ発電の導入容量が全国第二位であることがあげられる。仮に、これらの設備による発電電力のすべてを水素製造に利用できるとすれば、年間数万トンの水素が製造できる。二つめに、水素の利用についても大きなポテンシャルがある。本件は製造品出荷額等が全国一のモノづくり県である。また、燃料電池自動車、燃料電池フォークリフトの製造拠点であり、現時点で燃料電池自動車普及台数、水素ステーション設置数ともに全国第一位である。

    こうしたポテンシャルを生かし、県内の再エネを使って製造した水素を県内で供給利用するという、低炭素水素の地産地消の仕組みを作りたいと、昨年度、企業等と連携し事業化に向けての検討を始めた。昨年度の検討において、現在利用できる技術や設備を組み合わせることでより低コストで持続性のある仕組みが構築できないかという観点から、いくつかのモデルを設定し、それぞれ試算を行った。はじめに、再エネ発電等の現場で水素を製造・圧縮し、水素を利用する場所に輸送するという「圧縮輸送モデル」について試算した。その結果、一定の条件下であるが、圧縮・輸送にかかるコストが全体の3割強を占めるということがわかった。そこで、輸送コストをかけないモデルとして、ごみ処理場でつくった再エネ電力を、既存の電力網やガス導管を使って水素を使いたい工場に再エネを「託送」し、そこで再エネ由来の水素を製造するという「再エネ託送モデル」で試算した。結果、圧縮・輸送コストのほとんどを削減することができ、現時点ではコスト的に最も有力なモデルであると考えている。

    この託送モデルを事業化するにあたって、大きく二つの課題がある。一つは、低炭素水素を製造するための再エネの安定的な確保である。もう一つは、製造される水素が再エネ由来であることを客観的に明らかにする認証制度の確立である。今年度は、まず後者について、再エネの提供から水素の製造という流れの中で、どれだけ再エネが入ってどれだけ水素が製造されたかについてのエビデンス、客観的な測定データ等を出していただくことで、県が認証する制度を検討している。そのために必要なデータはなんなのか、どういった契約が良いのか等も含め洗い出しているところである。そして前者の再エネの安定的確保については、県が関係者間の調整を進めていく必要があると認識しており、これにも取り組んでいく。実際に再エネを提供する自治体、送電網やガス導管を持つ事業者、低炭素水素を利用する企業の協力なくしては進めていけないので、連携を密にして取り組んで行きたい。

    低炭素水素の取り組みを県内のいたる所で、できれば近い範囲でその地域のエネルギーを使って水素を作り使うという仕組みを構築できればと思っている。また、この形で「水素を使う」という環境をつくることで、将来さらに大量に低炭素水素が供給できる仕組みができた際にも、低炭素水素を利用する環境が整っていればスムーズに低炭素水素社会に移行できると考える。

    低炭素水素の利用拡大については、まず低炭素水素を製造するための再エネの確保、すなわち再エネ設備のさらなる導入拡大が必要であると考える。同時に、水素の利用拡大ももちろん必要である。企業の皆さまにはこれらをぜひ検討いただき、この地域の低炭素水素の利用拡大に貢献いただきたい。「あいち低炭素水素サプライチェーン」へのご理解をいただくとともに、低炭素水素利用の「仲間づくり」にご参加、ご協力いただくよう、お願いしたい。