EPOC低炭素社会分科会/自然共生社会分科会
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日 時: | 2014年3月17日(月曜) 13時30分〜17時 |
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場 所: | ウインクあいち(愛知県名古屋市中村区) |
参加者: | 58名(EPOC会員) |
講 師: | 【第1部】花木啓祐 氏(東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 教授) 【第2部】岡本峰雄 氏(東京海洋大学 大学院 海洋科学系 教授) |
目 的: | 地域でのコミュニティ力を活用した低炭素地域形成についての取り組み事例と、地球温暖化による生物の危機をサンゴ礁を事例に学び、低炭素社会の実現と自然共生から、今後我々の向かうべき方向を学習する。 |
所 感: | 我々EPOC低炭素社会分科会がテーマとしている低炭素社会の実現は、地域の活性や広く地球全体の持続可能に繋がること、それにはコミュニティを基盤とした活動や、地域により異なる対策が重要であることを改めて認識した。またサンゴ礁の再生では、長い期間の研究や対策が必要なことが分かった。また、エネルギーは要するが地球や海洋の再生の可能性に、希望を感じた。 |
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【第1部】「コミュニティの力を生かした低炭素地域形成」
サステイナビリティのための主要3要素として「環境」と「社会」、「経済」があり、それぞれが繋がっている。また地球全体のサステイナビリティは市、県など地域の小さな範囲でのサステイナビリティと、密接に繋がっている。本日のテーマは低炭素という地球全体の問題に対して、地域のコミュニティが重要であることをお話しする。温暖化問題解決だけのために低炭素社会を実現しようとしても社会は動かない。高い生活の質の実現や社会の活力を維持し、循環型の持続可能な社会の実現を目標にすべきである。持続可能な新しい地域の姿を実現するには、抑制的に行う方法もあるが、縮小衰退することになり目指す姿ではない。ダイナミックな持続可能性の実現には、低炭素を再生の推進力に、地域の再生を図る必要がある。環境負荷と生活の質は「広い家に居住する」というように相反する項目もあるが、「郊外での自然の保全」のようなwin-winの関係のものもある。生活の質を高く維持し環境負荷を増加させないwin-winの道を求めるべきである。例えば断熱による省エネで、アレルギー性疾患などが減少したという健康向上の報告もある。現状、開発途上国や新興工業国では生活の質の向上で環境負荷は増加するが、先進国や日本のようなポスト先進国では精神的豊かさ、文化、歴史の達成と環境への配慮により、環境負荷は減少する。価値観の変化を見ると「物質より心の豊かさに重きをおきたい人」と「物質的な面で生活を豊かにしたい人」の割合が、1970年頃はほぼ半々であったのが、2010年には6対3に変化している。
再生可能エネルギーのポテンシャルは大きく、FIT(フィールドインタリフ)制度などにより再生可能エネルギーの導入が進めばコストも下がる。エネルギーのポテンシャルが中山間地域にはあり、その実現を消費地(大都会)がけん引することで実現する。例として岐阜県郡上郡石徹白(いとしろ)地域の小水力発電による地域の活性化がある。1箇所では成果は低いが、全国に1,000箇所以上可能性がある場所が簡単に見つかる。他にも雪国型メガソーラや群馬県太田市の住宅用太陽光発電、北海道下川町のバイオマスエネルギー、青森県の風力発電などの例がある。交通マネジメントや再生可能エネルギー生産、低資源消費、良好なアクセス、公共サービスの改善などで、住み替え時に集合住宅に代わり、人口30万から50万人のコンパクトシティーが、都市構造を変えればよい。
技術革新、省エネ・再生可能エネルギー・モビリティ技術の「供給者」と、ライフスタイル・ビジネススタイル・購入の「賢い消費者」、都市計画・交通システム・情報技術など「政策決定者」が協働で望ましい「まちとくらし」をつくる。コンパクトシティーに変化する前に、先回りし環境問題に取り組むプロジェクトが全国にある。東京都文京区の「文の京(ふみのみやこ)プロジェクト」等である。地域の課題と連携させ脱温暖化の取り組みを総合的に進め、主体的脱温暖化行動の潮流を作り出すことなどをねらい、環境学習指導員認定講座や小中学校用環境教材の作成、プチエコプログラム、家庭用省エネ診断などに取り組んでいる。
大都市、中規模都市、小規模市町村(農林)別の計画で、2050年に規模に応じた低炭素社会を実現したい。
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【第2部】「海洋温暖化の実態とサンゴ礁の再生」
サンゴは、1970年代は富栄養化が招いたと考えられるオニヒトデの大発生の食害により、1980年代には自然現象と魚介類の偏った乱獲によるフェーズシフト(サンゴ礁が藻場)や地球温暖化による高水温が原因のサンゴの白化・死滅により、絶滅過程にある。さらには増加する炭酸ガス濃度のため海水酸性化が次の問題となっている。
今世紀中の予測では、白化でサンゴが絶滅しなくても、酸性化で骨格ができなくなる可能性がある。那覇港では平均水温が、ここ100年で2.3℃上昇しており、これは陸上の気温の上昇を上回っている。石西礁湖では、石垣島地方気象台の6〜9月の日平均気温が30℃を超え日数が30日以上で、且つ30℃を超えた平均気温(日平均気温―30)の累積が10℃以上の場合に白化が発生している。現在まで1998年が最悪で、2007年がそれに次いでいる。
白化が発生した日本最大のサンゴ礁がある西表島の石西礁湖で稚サンゴの数を増やす取り組みが環境省によって行われている。サンゴの絶滅までの時間を稼ぎ、その間にサンゴが高温耐性を得ることを期待している。1998年以降、石西礁湖の北礁が高温耐性を持ったミドリイシ属のサンゴ群集で再生した。クシハダミドリイシをそれらの代表として、死滅・再生過程を解明した。2013年までで過去最高の気温だった1998年以上の値年はないが、2003、2007、2013年の白化では影響を受けていない。1998年以降に生まれたミドリイシは第2世代として高温耐性を有していると考えられる。ただし、1998年を上回る高気温が今後3〜4年以内に起きると予測されている。それに耐えられるか否か、または第3世代に進化できるかが次の関門である。仮に炭酸ガス濃度の増加が海洋温暖化の原因でなくても、炭酸ガスの増加海水の酸性化を招く。近い将来サンゴが骨格を作れなくなり、サンゴ礁が溶け出すとの試算がある。サンゴは海洋における基礎生産者であり、食物連鎖の中で極めて重要な役割を果たしている。サンゴの危機は我々人間への警鐘そのものである。
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