フォーラム等

「EPOC20周年記念フォーラム」実施報告

環境パートナーシップ・CLUB(EPOC)では、EPOC20周年記念フォーラムを開催しました。
今回のテーマは「イノベーション×パートナーシップ×中部圏」と題し、新たに策定しましたEPOC2030年ビジョンとそこに込めた想いを会員の皆様へお伝えするために基調講演とパネルディスカッションの2部構成とし、より多くの方々への発信を目的としてEPOCでは初の試みであるYouTube配信でとり行いました。
基調講演ではSDGsに関する最新動向や課題、今後の方向性について科学技術イノベーションによる社会変革という観点でお話し頂きました。また、パネルディスカッションでは「水素社会への変革」を題材として「環境イノベーションの意義」や「パートナーシップ」の重要性について様々な視点から活発にご議論頂きました。

日時:
2020年10月12日(月曜日)14時00分〜16時50分
※見逃し配信を10月19日〜10月30日で実施しました
形式:
YouTube配信(事前録画)
参加者:
375名(見逃し配信を含めた延べ人数)
主催:
環境パートナーシップ・CLUB(EPOC)


プログラム

14時00分〜14時02分 【開会挨拶】
EPOC会長 寺師 茂樹
トヨタ自動車株式会社 取締役・執行役員
14時02分〜14時05分 【EPOC2030年ビジョン】
EPOC幹事長 山田 裕一
トヨタ自動車株式会社 プラント・環境生技部 部長
14時05分〜14時50分 【基調講演】
「科学技術イノベーションとパートナーシップによる社会変革」

国立研究開発法人 科学技術振興機構
顧問 中村 道治 氏 (国連「10人委員会」メンバー)

中村様からは、SDGsという人類共通の価値観や目標ができたことの意義の大きさやその世界的動向、また、国内における科学技術イノベーションに関する施策や着眼点などについて、国連のSDGs達成に向けた科学技術イノベーションの技術促進メカニズムを支援されている立場から、実例も交えて大変示唆に富んだご講演をいただきました。
ご講演の前半では、トレードオフやシナジーの関係にあり複雑に絡み合うSDGsの17ゴールに取り組むためのアプローチとして国連が推奨する「4つの手段」と「6つのエントリーポイント」を紹介頂きました。また、SDGsの達成に向けて国レベルのロードマップから地方や個々の組織レベルまで様々な階層でのロードマップ策定が必要であり、その中でも特にローカルSDGsで成功をおさめ、国内、海外へ普遍化・拡大していくことの重要性について、「SDGs未来都市」や「地域循環共生圏」といった施策を例にあげながら解説頂きました。

ご講演の後半では、自動車、環境・エネルギー分野等の実例を交えてSDGs達成に向けた技術開発動向や日本の諸政策、イノベーションの必要性についてお話し頂きました。特に、自国で「技術ストック」を保有することが産業競争力や国家の安全保障という観点で大変重要であるということを強調されました。
14時50分〜14時55分 【休憩】
14時55分〜15時05分 【事例紹介@】
「国際水素サプライチェーンの実現に向けた取組み」

川崎重工業株式会社 水素チェーン開発センター
プロジェクト開発部 部長 吉村 健二 氏

吉村様からは、オーストラリアの未利用資源(褐炭)から低コストに水素を製造し、液化水素として大量に日本へ海上輸送するという「国際水素サプライチェーン」構築に関するプロジェクトについてご紹介頂きました。

15時05分〜15時15分 【事例紹介A】
「脱炭素社会の新ビジネスPower to X(P2X)」

東芝エネルギーシステムズ株式会社
水素エネルギー事業統括部
マーケティングエグゼクティブ 大田 裕之 氏

大田様からは、福島県での再エネ活用のCO2フリー水素製造と、水素を調整力とした需給調整の実証事業ということでP2Gの事例と、さらにそこへCO2を資源化するというP2Cを組み合わせていくP2Xの構想についてご紹介頂きました。

15時15分〜15時25分 【事例紹介B】
「燃料電池自動車MIRAIで切り拓く水素エネルギー社会の未来」

トヨタ自動車株式会社 Mid-size vehicle Company
チーフエンジニア 田中 義和 氏

田中様からは、発売間際の燃料電池自動車である2代目MIRAIに込めた自動車メーカーとしての想いや、水素の普及に向けた取組みを紹介頂きました。

15時25分〜16時50分 【パネルディスカッション】

まず最初に、各事例について「イノベーション」という観点で補足して頂きました。
吉村様は、液体水素運搬船開発においてロケットやLNG船で長年培った極低温技術が応用されている点を例として、一朝一夕にブレークスルーが起きるのではなく、一つずつ積み上げてきた技術が花開くものであるとの考えを示されました。
大田様は、余剰再エネ時代の水素を調整力としたエネルギーマネジメントのあり方として、水素発電やFCV以外の需要としてP2Xが大きな可能性をもっており、そのための技術開発や事業開発、社会制度の変更などが一体となった「サプライチェーン自体の革新」であると述べられました。
田中様は、FCVと水素ステーションの関係をお互いに補完しあう「花とミツバチ」に例えて、MIRAIの普及が水素ステーションの増加につながること、そのためにMIRAIの商品力を高めてユーザーに選んで頂けるクルマにすることが2代目MIRAIの使命であり、インフラ整備を伴う社会システムのイノベーションにおける需要と供給の好循環という観点でお話頂きました。

つづいて、各事例における「イノベーションの意義」について議論を深めました。
田中様は、燃料電池技術の実用化・量産化の意義として「日本のものづくりの強みを生かせること」を挙げられました。200年以上前に発見された燃料電池技術が現在ようやく乗用車に実用化されたのは、コンパクトでハイパワーなものをつくることが非常に難しかったからであり、日本の精巧な機械加工技術や高度な材料技術が生かせる分野であることや、自動車は裾野の広い産業であり今後も産業の中心であり続けることが日本の皆様の幸せにつながるとの想いでFCVの開発をしていると語って頂きました。
大田様は、P2Xにより余剰再エネに値段がつくことや、電力の調整力として機能することから電力事業者による変動吸収コスト(蓄電池、発電量調整)の低減、さらには再エネや電化によってCO2削減の恩恵をうけにくい産業(運輸、製鉄、化学工業など)においてもP2Cによる化成品製造などによる環境プレゼンスの向上などの嬉しさがあることなどが紹介されました。また、CO2低減という視点では、2030年以降は年率6〜7%のCO2削減が求められるが、新型コロナ感染症による産業不活性化のインパクトが年率8%相当との試算から考えると相当な革新的アプローチが必要であり、そこへの貢献という意義も付け加えられました。
吉村様は、世界各地の未利用資源を活用できることなどの3E+Sの観点で「褐炭から水素をつくる」ことと「大量に海上輸送する」ことの意義について説明されました。
環境イノベーションというものが、地球環境問題の解決のみならず社会変革をもたらす非常に奥の深いテーマであることが理解できました。
これらの議論を踏まえ、中村様は、個々の企業が技術ストックを蓄積していくなどの「技術の積み重ね」が大切であること、そして、90年〜00年代は製造で世界を席巻し、現在は輸入に頼っている太陽光パネルを例にとり、最後に勝つことの重要性を強調されました。長年、研究開発の最前線に立たれていた立場からの非常に重みのあるお話でした。

最後に、イノベーション実現のための「パートナーシップの重要性」について議論を行いました。
ユーザーとの連携、サプライチェーンでの連携、ステークホルダーとの連携・協力などによって、より良いものを早く社会実装することに繋がるという視点や、社会変革に結びつけるためには地域社会との連携が不可欠であるという視点で議論を深めて頂きました。

また、中村様からは、Maasに代表されるように、ものづくりが単なるプロダクトだけでなくサービスづくりへと価値が移ってきており、中部圏の企業やEPOC会員には新しいものづくりの在り方をリードしてもらいとの激励を頂きました。


フォーラムを終えて

今回、EPOC2030年ビジョンとそこに込めた想いを伝える場として本フォーラムを企画しました。
「環境におけるイノベーションとは何か?」ということからまずは考えようということで、イノベーションについて時間を割いて議論を行いました。SDGsが示すように環境問題はエネルギー・公害・資源だけでなく食料・健康・飢餓など多様な問題と複雑に絡み合っています。単にひとつの技術開発をするのではなく社会変革を見据えたアプローチが必要であり、その中で求められる製品やサービス、法制度などを様々なパートナーと連携してつくり出すことが求められているのだと実感しました。

EPOCは今後も会員や地域の皆さまのお役に立てるよう、勉強会や交流会等を開催して参りますので引き続きご支援、ご協力を賜りますようお願いいたします。

最後に、ご講演頂きました講師の方々には、この場をお借りしてお礼申し上げます。