視察・調査

2015年度 生物多様性保全の先進的取組み企業の視察

はじめに

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知・名古屋で開催されて5年が経ち、今年は国連が定めた「国連生物多様性の10年」(2011年〜2020年)の折り返しの年にあたります。生物多様性への取組みへの関心が高まっている昨今では、企業による生物多様性保全の取組みがますます重要視されているところです。
当分科会では、今回、琵琶湖に近い野洲市及び近江八幡市の先進企業3社を視察し、生物多様性保全の取組みをご紹介いただきました。各企業の取組みは、独自の緑化方針による緑化活動、地域や全国とのつながりを考慮した長期的な活動、各団体との連携・協働による活動など様々ですが、いずれの企業もしっかりとした理念を持って活動に取組まれていることが共通点でした。今回の視察を通して、生物多様性の保全に向けた取組みを行うためのヒントを得ることができました。

開催日時: 平成27年10月27日(火曜日)
見学先: 1.株式会社村田製作所 野洲事業所
2.株式会社たねや ラ コリーナ近江八幡
3.オムロン株式会社 野洲事業所
参加者: 40名

【視察全般に関する参加者の感想】
「視察先全ての活動が良かったです。」
「村田製作所は、緑化の徹底、地域への貢献、たねやは、長期的スパンでの森づくり思想、地域への貢献、オムロンは、小規模ビオトープ、連携の輪を視察出来て良かった。」
「全社とも、地域との調和を図る事のみでなく、自社の社員教育や安らぎの場として捉えられており、継続した力となっていると思いました。」

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    1.株式会社村田製作所 野洲事業所


    【概説】
    同社は電子部品の製造で各分野に高いシュアを持ち、国内外に多くの事業所を展開するグローバル企業です。その中でも、野洲事業所は生産技術・電子材料・被膜プロセス技術など研究開発の拠点として1987年に操業、24万uの広大な敷地内に多数のテーマを持った緑化ゾーンを設けられています。
    また、事業所の緑化計画に際しては、造成前に環境調査を実施した結果から、従来の植生の復元と希少植物であるコモウセンゴケ等の保護に取組み、2013年に緑化優良事業所として「経済産業大臣賞」を受賞されました。


    【見学内容】
    事業所内の広範囲に多数配置された緑化ゾーンの中で、今回は天徳地区をご案内頂き、滋賀県の花(シャクナゲ)と木(もみじ)を多く取り入れた回廊及び人工湿地によるコモウセンゴケの保護区域を見学しました。
    同社は緑化に向けた全社共通の「ムラタの緑化方針」を定めており、方針に沿った緑化を進められているとのことでした。立地場所が琵琶湖と背後の丘陵地帯の中間点であることから、昆虫や鳥類の保護のために実のなる木を植えられています。鳥類は造成前の17種が現在は14種に減少しているものの、新たに20種の鳥類が確認されており、自然回廊を意識した植生の成果をうかがうことができました。
    地域との協和を図り、心身共にリフレッシュできる「緑が豊かでクリーンな事業所」を目指されており、除草剤を使用しない人手による除草作業や事業所周辺のフェンスを植栽で覆って見えないようにするなどの取組みをされています。その結果として、希少植物の保護や自然回廊の効果を備えた、豊かな緑地を形成した良い事例を見学することができました。

    緑化ゾーンとコモウセンゴケ保護区域

    【参加者の感想】
    「地域の景観に入り込んでいるというか、ひとつの自然を作っている様子が素晴らしかったです。また、地域との連携活動では、周囲の人々とよくタイアップしていてその関係性の作り方も参考になりました。」
    「希少生物(コモウセンゴケ)の保護やシャクナゲなどの緑の回廊への取り組みが印象強く残りました。できることをしっかりと実施されている感じがしました。」
    「地域と共生しながらの緑地管理が素晴らしい。計画的な緑地づくりが参考になった。」

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    2.株式会社たねや ラ コリーナ近江八幡


    【概説】
    同社は和洋菓子の製造販売で全国展開をしていますが、同時に環境に対する取組みを数多く展開されています。
    2014年1月9日にオープンした「ラ コリーナ近江八幡」では、屋根緑化を施した「メインショップ」のほか、同社が目指す菓子づくり、農のあり方の原点である「たねや農藝」を見学させていただきました。農業は芸術であるとの考えから「藝」の漢字を使用されており、「植物に手を添え植える」という意味もあるそうです。田畑をメインとする「北ノ庄菜園」や山野草の種苗を育成する「愛四季苑(はしきえん)」で構成されており、地域と密着したサスティナブルな取組みを行われています。


    【見学内容】
    「メインショップ」は屋根全体を高麗芝で覆い、良好な景観づくりに加えて温度調整の効果を得ることができるとのことでした。
    メインショップの背後にある「たねや農藝」では、風景を積極的に造っていくことも考慮されているそうで、建物の屋根は社員の手による土づくり、種まきが行われたもので、草の生い茂る緑の屋根となっています。また、敷地内の森の育成のために社員や家族によるどんぐりからの苗づくりが行われています。さらに、良いお菓子は良い農産物からという理念のもと、まずは自分たちで作ってみようということで有機栽培に取組まれており、社員教育の場としても活用されているそうです。
    「北ノ庄菜園」はこれからの農のあり方を追求する場であり、社員の手作業による田圃と棚田等を見学させて頂きました。収穫した米は、天日乾燥した後に社内イベント等で振舞われるとのことです。また、今後は年毎に種類を変えた作付けを予定されているとのことでした。「愛四季苑」では、地域の植物を種から育てて苗にし、四季折々の寄せ植えを店舗の彩りとして配置するほか、販売も行われています。
    また、地域と一体となった緑化活動として、近隣の放置された竹林の整備などにより、ラムサール条約登録湿地である西之湖と八幡山をつなぐ森の回廊づくりを進められており、山の生き物と水の生き物が生き返ることをめざしているとのことです。
    そのほか、資源循環への取組みとして、バームクーヘンの生産で発生する端材や不適合品を家畜飼料とし、それを食べて育った豚を「バーム豚」として提供されていましたが、最近では「バームサブレ」へ再製品化することでリサイクルからリデュースへの切り替えが進んでいるとのことです。

    メインショップと愛四季苑で種からの苗木づくり

    【参加者の感想】
    「原材料の確保のために重要な農業を守る取組みもされており、目先の利益だけにとらわれず、生物多様性を保全しようとされている企業だと感じました。」
    「自然、バックの山との一体感を感じられました。また事業上大切な農産物をとても重要視し大切にされている会社のみなさんの思いが伝わってきました。」
    「田畑はこれからも広がるとのことなので数年後にもう一度見たいと思いました。」

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    3.オムロン株式会社 野洲事業所


    【概説】
    同社はセンサーや制御機器、電子部品、医療機器、インフラシステム等で独自の高い技術力によりグローバル展開をされています。野洲事業所では、本業を行うことでいかに環境にやさしいものを作るか、という考えのもとで省エネなどに寄与する製品づくりをされています。
    環境にやさしい事業所づくりの一環として、琵琶湖と共生した事業活動、環境関連活動の推進(自然保護セミナーや川の清掃など)、生物多様性保全への取組みを行われています。2010年には既存のビオトーブを自然の再生を目的に改修し、希少種となったイチモンジタナゴの保全に取組まれたことにより、「平成26年度しが生物多様性大賞」を受賞されています。


    【見学内容】
    野洲事業所では半導体の生産に大量の水を使用していますが、それらは排水処理された後に一部をビオトープとして利用されています。2010年より、従来からあったビオトープを「琵琶湖博物館」と「結(ゆい)社会デザイン事務所」の協力で植生も拡大した改修を行い、自然再生と希少種のイチモンジタナゴの保護に取組まれました。
    イチモンジタナゴの保護は、NPO「ぼてじゃこトラスト」の協力で繁殖に欠かせないドブ貝(産卵貝となる二枚貝)やヨシノボリ(ドブ貝の幼生がえらに寄生する魚類)の生息環境も整えたことにより、初年度は200匹まで増やすことができたそうです。しかし、その後は成魚は生息しているものの繁殖が確認できないため、二枚貝の投入や池干し、水草の植栽など様々な条件変更を継続中とのことです。最近では、ビオトープに生息する昆虫も増え、希少種のコオイムシなども確認されているそうです。
    ビオトープでの希少種保護、自生種の移植などによる社員の環境意識向上に加え、自然教育への積極的な取組みで、地域に貢献する取組みを見学できました。また、生物多様性保全に関する協働の形態が、ビオトープを通じて地元から全国的な交流へと発展し続けているというお話も聞くことができました。

    ビオトープ(ぼてじゃこの池)

    【参加者の感想】
    「見える化やイチモンジタナゴの保全は参考になりました。」
    「ビオトープづくりがきっかけとなり、共働、連携の輪が広がった事は、企業にもメリットがあるのではないかと思います。ビオトープが比較的小規模であるので、これからビオトープを整備しようとする企業にとって参考になると思いました。また、生物相手の活動は思い通りにはいかないことも学べました。」
    「イチモンジタナゴが2年目以降ふ化してないことは残念ですが、ビオトープとしては良いものが出来ているようなので、今後の動向が楽しみです。」