研究会

GREEN ECHO活動セミナー「企業活動と生物多様性保全」


概要

日 時: 2015年10月14日(水) 15:15〜16:45
目 的: 2015年度より開始したGREEN ECHO活動のSTEP2として開催。
(GREEN ECHO活動のSTEP2とは、緑について考えることを目指す活動で、本セミナーへの参加によりSTEP2への参加となる)
講演会では事例紹介を交えながら生物多様性保全の取り組みについて企業活動との結び付きやその重要性について、見学会では、実際のビオトープを見学しながらその成長、生息する生物などについて理解を深める。
場 所: 東邦ガス株式会社 技術研究所
参加者: 32名

1.第1部 講演会
「企業活動と生物多様性保全」
ビオトープ・ネットワーク中部会長 長谷川明子氏

2050年までに目指すべき「自然と共生する社会」の姿から、生き物の減少や絶滅などが予測され、人類が当たり前のように享受している生態系サービスの持続的な活用が今後難しくなるといった、生物多様性の保全に取り組む背景についてご説明いただいた後、1992年の地球サミットで採択された特定地域の生態系に限らず地球規模で生物多様性の保全を目指す「生物多様性条約」や地球規模で環境と開発を調和する持続可能な開発や自然との調和を目指す「環境と開発に関するリオ宣言」、2010年のCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)で決定された2020年までに生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急の行動を実施する個別の目標を定めた「愛知目標」など、生物多様性を保全するための世界的な動きについてご紹介いただきました。
さらに、企業が既に実践している活動として、生態系ネットワークの構築を目指して該当する場所にある工場や大学が設置したビオトープ、都市化で減少した生き物の生息地の回復に向け都市の中のビルの屋上や駐車場など狭いスペースを有効活用して作られた緑地、企業と地域住民が一体となって進める在来種の苗木育成など、様々な事例をご紹介いただきました。


  • 講師 長谷川氏

  • 会場の様子


2.第2部 ビオトープ見学会

実際の企業の生物多様性保全の事例として、東邦ガス(株)技術研究所内のビオトープ(面積約600m2、内池の面積約100m3)を見学しました。
このビオトープは、愛知県で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)を契機に、以下のコンセプトで平成22年に設置されました。

  • 地元固有の植生の保全:近隣市町村の人為的影響が少ないと考えられる森にある樹種(シイ、カシ、コナラなど)の利用、愛知県内で精算された苗木の調達
  • 自然の森が成長する過程※の体感
  • 地域の自然・緑との連携:周囲の自然・緑地を通じて移動する野鳥・昆虫等の休息地
  • 次世代層への環境学習の場:次世代層への生物多様性
造成直後から、植物の繁茂、生息する動物が増加し、2012年は約200種類、2015年は約220種類の動植物が確認されました。例えばトンボでは、ギンヤンマ、ショウジョウトンボ、シオカラトンボなど12種類のトンボがこのビオトープで飛んでいます。さらに、2015年には、渡り鳥のコサメビタキやニホンカナヘビなどが確認されるなど、造成からわずか5年で生き物の生息地として定着しつつあります。
また、池内ではニホンヒキガエルが確認されましたが、外来種のウシガエルが繁殖し、他のカエルが観察できないなど、外来種の影響を実際の事例で理解を深めました。
現地では、実際に若齢林、極相林、その中間期の森といった自然の森の成長の過程や、ビオトープに生息するヤゴなどの生き物の種類、日本固有種のトウオオバコと、広く帰化しており地域によっては侵略的外来種として扱われているセイヨウオオバコの見分け方などについて現物や資料を使いながらご説明いただき、見学者からはビオトープの設置に伴う影響や、在来種と外来種の見分け方が実際に現地で確認できてためになったといった声があがっていました。


  • 講師による説明

  • 見学の様子

  • ビオトープのコンセプト


※自然の森が成長する過程(植生の遷移)
自然の森の初期は、強い光を好み、乾燥に強い陽樹(陽光が十分当たる場所で生育する樹木)が低木林を形成する。やがて陽樹が成長して高木林を形成し、林床に光があまり届かなくなり、次第に陰樹が成長を始め、陽樹の成木に陰樹が混じった混交林が形成される。混交林が成長すると、林床に光がほとんど届かなくなり、陽樹は減退・消滅して陰樹を主な植樹とする高木林が形成される。陰樹は少ない光環境の中で育つため、幼木と成木が入れ替わるだけで構成する植生が変化しない安定な状態「極相」になる。最終的に、ブナやカシといった陰樹の高木林で「極相林」が形成される。


以上