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シャルマース工科大学

日時 2004年7月13日(火)10:00〜12:10
訪問先 シャルマース工科大学
応対者 機械工学部エネルギー変換学科 Bo Leckner教授

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 シャルマース工科大学はヨーテボリ市の中心部に位置するスウェーデン有数の大学である。同大学は1829年にウィリアム・シャルマース氏の篤志により設立された大学で、10学部,12の修士課程が設置されており、教職員2445名,学生5983名(2003年)が在籍している。1937年に国立大学となり、1994年にいわゆる独立法人化されている。
訪問先は、工学部機械工学部エネルギー変換工学科に所属するボー・レックナー教授である。レックナー教授は、バイオマス、石炭や下水汚泥等の燃料や廃棄物を効果的に燃焼し熱エネルギーへ変換する技術に関する専門家で、特に粒子・流体力学や流動層を用いたエネルギー変換に関する研究における世界的権威である。
訪問においては、EUならびにスウェーデンにおけるエネルギー・環境対応施策と、バイオマス利用やクリーンコール技術に関する最新トレンド情報の提供を受けた。
スウェーデンにおけるエネルギー供給量(2001年)は総計616 TWhで、内訳としては原子力(グロス)211TWh(34.5%)、原油192 TWh (31.1%)、バイオ燃料・泥炭97 TWh(15.7%)、水力発電(グロス) 79TWh(12.8%)、石炭・コークス 27 TWh(4.4%)、天然ガス 9 TWh(1.4%)、風力発電 0.5 TWh(0.1%)、国外への売電 7 TWh(1.1%)であり、電力供給量は158 TWh(ただし2002年では143.2 TWh. 原子力65.6 TWh, その他77.6 TWh)で、工業分野で36.6%、住居・サービス分野で46.9%が利用されている。バイオ燃料・泥炭は主としてパルプ工業で用いられ、発電のためには5%程度利用されているのが現状である。なお、スウェーデンの原子力政策としては原発を2010年までに全廃する目標は持っているが、エネルギー節約、エネルギーの効率的利用、新エネルギーへの投資等を進め、毎年それらの進捗状況を監視しながら、原子力廃止計画を決めることとされているようである。
京都議定書やCO2排出EU割当て計画(NAP)を遵守するためには、エネルギー需要量を低減すること(消費量の低減,プラント効率の向上)あるいはCO2排出量そのものの低減を図る(燃料転換,CO2の固定化)必要がある。(2005年1月からは、試験的に排出権取引も始められる。)
前者の対策としては、特に発電プラントの効率を向上させることが有効であるが、石炭火力発電の効率は70-80年代の36-38%から90年代以降では43-48%に改善されており、年齢が20年を超えるプラントをリプレースすることにより大幅なCO2排出量の低減を実現できる見込みである。今後の開発目標としては、2015-2020を目処に新規材料開発等によって700℃の蒸気温度を達成し、50%以上の発電効率を達成したいと考えているようである。
一方では、排出原単位の高い石炭系燃料から原単位の低い原子力、天然ガスへの燃料転換という方法が挙げられるが、原子力については欧州内においても国によって対応がまちまちである。原子力発電を大幅に増やす政策を打ち出している国はないが、フィンランドは1機増設予定であるのに対し、ドイツ、ベルギー等は将来的に無くすという政策を発表している。天然ガスへの燃料転換によってCO2排出量の低減を図るスキームは欧州でも進行しているが、スウェーデンでは天然ガス焚き発電施設の新規計画は1件あるのみで、燃料転換を強く推進する計画は有していないようである。
これに対し、欧州全体としては天然ガスへ燃料を転換する強い動きがある。現有の175.8GW(924施設)の発電施設に対し、今後プラント寿命を迎える施設を更新するに当たり現在の計画として、天然ガス焚き86.2GW,石炭焚き3.4GW,褐炭焚き2.9GW,石油焚き1.7GWの新規プラントを建設する計画が立てられている。特にイタリアでは全新規火力発電が天然ガス焚きである。しかし、この様に燃料の天然ガスシフトが急激に進むことについて、レックナー教授はガス価格高騰の可能性を指摘している。燃料の供給者達は一様に、ガスの調達は長期契約になっているため、価格が高騰することはないと言っているが、北海からの調達には大きな問題がないとしても、特にロシアのように周辺国を含めた政治情勢が不安定な国からの調達に関してはリスクが伴うため、急激な天然ガスシフトには注意する必要がある。火力発電から排出されるCO2を固定化する新しい動向として、空気から分離した酸素を支燃ガスに用いるプロセス開発(Oxfuel combustonと呼ばれている)や、水素転換技術(CO2shiftと呼ばれている)がある。Oxyfuel combustionでは燃焼ガスに窒素が含まれないために排ガスからのCO2分離が極めて容易となり、効率的なCO2固定化を目指す上で有望なプロセスと考えられている。CO2固定のためのコストは現在50ユーロ/トン- CO2と見込まれており、将来は20ユーロ/トン- CO2となるとの見込みである。EUの排出割当てに対しては10ユーロ/トン- CO2の支出が見込まれており、またスウェーデンでは既に100ユーロ/トン- CO2の炭素税(暖房向け)が課せられてる。
なお、A.Lyngfelt教授による試算によれば、CO2固定費を含めた発電原単位費を比較すると、最新の石炭複合発電(IGCC)や天然ガス複合発電(NGCC)の原単位費はいずれの再生可能エネルギー発電の原単位費と同等かそれ以下となると見込まれている。
以上のスウェーデンを中心とした欧州におけるエネルギー・環境技術と政策の動向を踏まえ、レックナー教授のグループで進められている研究について説明がなされた。代表的な研究課題として、化学的循環燃焼(金属酸化物を酸素分離媒体として用い、これを循環再生させる一種の純酸素燃焼技術),流動層燃焼における流体力学,Oxyfuel燃焼(純酸素燃焼)を用いるCO2固定化技術,流動層を用いる混焼(石炭と下水汚泥やごみとの混合燃焼),バイオ燃料の燃焼プロセス、などを採り挙げて概略の説明がなされた。
その後、バイオマス等を燃料とするコジェネ試験装置等を見学し、最新の研究の実態について議論した。

 
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